突然雨が降ってきた。
楽器屋に行ったら帰ってくる予定だったため、傘なんて持ってきてない。

そういえばお昼の腹が立つバラエティー番組で『午後から雨降る』って言っていたっけ。

なんだかまた腹が立ってきた。
『早くあの番組潰れないかな?』って、意味わかんない事を私は心の中で呟く。

幸い廃墟となりそうな商店街には、屋根が付いている。
ここを出るまでは大丈夫みたいだけど、今からどうするんだろう。

愛藍と二人で何するんだろう。

「最悪だな。ちょっと傘買ってくる」

その愛藍はその言葉を呟くと、まるで風のように商店街の中を走って行った。
同時に『愛藍は小学生の時、クラスで一番足が速かった』と私は思い出す。

取り残された私は周囲を振り返る。

薄暗い商店街はまるで、コウモリのいる洞窟のように不気味だった。
雨の音しか聞こえないこの場所に魔物でも住んでいるのだろうか。

時間は午後の四時。
雨も降っているし、そろそろ帰ろうかなと思っていた。

でも帰ったら兄が待っているし。
帰らなかったら愛藍と居ることになるし・・・・。

どちらをとった方が、私は今日という日を無事に終わることが出来るのだろうか。
どちらを選んでも上手くいかない気がするけど、気にし過ぎなのかな?

そんなことを考えながら私は商店街の中を少し歩いてみた。

どこを歩いてもシャッターが締まる店。
昔は賑わっていたのかな?

人もいない。
どこを見渡してもこの商店街の中には私一人だけ。

本当に違う世界に来てしまった気分だ。
愛藍もどこかに行ってしまったし。

そんな時、正面から小さな男の子が歩いてきた。
まだ八月なのに小学校はもう新学期が始まっているのか、男の子はランドセルを背負って下を向いて歩いていた。

傘を持っていなかったのか、髪や肩、そして彼が背負うランドセルは濡れていた。

身長は高く、痩せた体の男子小学生。
黒い縁の眼鏡を掛けていた。

学年は小学生五年生くらいだろうか。
それとなんだか元気が無いような。

少年は私の気配を感じることなく、下を向いたまま歩く。
そして私とすれ違う。

その時、私はこの子の正体に気がついた。
私にしかわからない彼の正体。

同時に懐かしさを感じた。
親近感が沸いた。

まるで、昔の私を見ているかのように。