「それよりじいさん、俺いつもので!腹減って倒れそうなんだよ!お前も一緒でいいか?」

私は慌ててメニューを確認しようとするも、そんなものはない。
カレー屋だから、カレーしかないのかな?

そんな慌てる私の姿を見た愛藍は笑った。

「残念ながらここはメニューは無いんだよ。ってことでいつもの二つ。あとこいつ、グリンピース嫌いだから抜いてくれね?あと量もちょっと少なめで。茜のやつ、昔からあんまり食わねぇし」

愛藍の注文の多いオーダーに、おじいさんは一瞬だけ躊躇ったような表情を見せる。

「あ?うーん。わかった。ったく、お前はロクな注文しねぇな。仕込みの段階で入れているって言ってんだろ?」

「それが柴田愛藍という男だ。他人と一緒のことは死んでもしたくない」

自信に満ちた愛藍の声を聞いたおじいさんは、呆れた表情を浮かべてコンロの火を点けた。
ため息も一つ吐く。

でも確かにそうだ。昔から愛藍は他人と一緒に何かをすることが大嫌いな少年だった。
クラスで読書をする時間も、彼は葵とずっと喋っていた。

帰り道の集団下校も愛藍はみんなと一緒に帰らずに、私と葵と一緒に別の道を歩いて帰ったことがある。

そうやってみんなと何かズレた人生を送っていた柴田愛藍。
でもそれは多分、親の影響だと思う。

ピアノを始めて人前で演奏出来るようになるまで成長したのも、『同じピアノを弾く人には負けない』という気持ちで生まれた努力があったからじゃないだろうか。
『親の指導は凄く厳しい』って、昔の愛藍は言っていたし。

それに愛藍は私と違って心も強い。
上級生に喧嘩を売る度胸も持ち合わせているんだ。

彼の辞書には『怖い』と言う二文字は存在しないのだろう。
何事に対しても、『常に前向きな少年』だったし。

・・・・・・・。

って、そう数日前までそう思っていた。
『愛藍は強いんだ』ってずっと思っていたけど・・・・。

どうやら違うみたい。

愛藍はテレビを見たり、ポケットから携帯電話を取り出すなど、落ち着きがない。
それに愛藍の手をよく見たら震えていた。

そういえば、確かこの前の音楽祭で再会した時もこんな光景を見たような。

ってか、どうしてだろう。
なんで愛藍の手が震えているんだろう。

緊張しているのは、私のはず・・・・。

お互い仲直りなんてしていない。

私が彼に謝れば、何もかも済む話。
だけど私は過去から逃げたいのか、余計な気持ちや疑問が私を襲ってくる。

・・・・・・・・。

なんで?

私は愛藍とどうしたいの?

答えは分かっているはずなのに、どうして行動しないの?

やっぱりまだ彼の存在が怖いから?

それと、なんで愛藍が私を怖がっているの?

やっぱり私が悪者だから?

私が関係を壊した悪魔だから、私と言う悪魔の存在に愛藍は脅えているの?

だったら、どうして愛藍は私に声を掛けてくるの?

愛藍は一体何を企んでいるの?

・・・・・。

もう分からない。
考えすぎて頭が痛くなってきた。