ルビコン

結局何も買わずに、楽器屋を離れた私達が向かったのは小さな商店街。
だけど全くと言ってもいいほど何故だか人はいない。

同時に周囲をよく見回したら、殆どの店のシャッターが閉まっていた。
定休日かと思ったが、そうでもないようだ。

商店街の真ん中にある、茶色の土が眠る花壇を見れば一目で分かる。

跡継ぎがおらず仕方なく閉める洋服店や電気屋、そして無人のスーパー。
それは人のいない『元商店街』だ。

その跡地だけが残る、ただたた寂しいだけの場所。
手入れされていない無精に雑草が伸びた花壇が、そう私に教えてくれた。

だけど全てのシャッターが降りている訳ではない。
その中で唯一、看板を出している店を見つけた。

カレー屋パンダ。
黄色の大きな看板が目立つ店に、愛藍は入っていく。

私も騙されている気分で暖簾を潜ると、調理白衣を来たおじいさんがキッチンに立っていた。
席はカウンター席しかなく、そのカウンター席からはキッチンの中が覗ける。

他に従業員は居ないみたいで、目の前のおじいさん一人で営業しているみたいだ。

私達以外のお客さんはいない。
だけどカウンター席に残る食器とコップを見る限りでは、さっきまでお客さんはいたんだろう。

でも特に賑わっている雰囲気はなさそうだけど・・・・。

それとカレー屋なのに、カレーの香りがしない。
これは中華料理のような香りだ。

なんか変な感じのお店。

やがてそのおじいさんも私達の気が付く。

「おう愛藍。いらっしゃい。ってお前、どうしたんだ?女なんて連れて」

愛藍は笑って答える。

「ダチっすよ!なんでもねぇから」

愛藍はおじいさんに笑みを見せるとカウンターに座った。
私も愛藍に誘導されて、渋々愛藍の隣に座る。

おじいさんは何度か頷いてる。

「ふーん。しかし、藤子さんが許してくれるのか?女作るなって言ってただろ?」

「さあな。まっ、母さんのことなんてどうでもいいけど。本人は只今海外ツアー開催中だから、来年になるまで帰ってこねぇーよ。つかコイツとはそんな関係じゃねぇーし」

愛藍の母親の柴田藤子も有名なピアニストだ。
私は会ったことは無いが、『性格がいい加減で、気まぐれな人』だと、春茶先生から聞いたことがある。

愛藍は続ける。