一方で兄はまだふざけたことを言ってくる。

「ってか土産ならその日に食えば良かったじゃねーか。普通に考えて家に持って帰ってきたら俺に食われるぞ、普通」

その普通という言葉が腹立たしい。

普通、メモ付きの人の食べ物は勝手に食べないつうの!
名指しまでしたのに!

「昨日はお腹痛かったから持って帰って来ただけ。もう最悪」

私はそう言葉を返しながら怒った表情を見せるも、兄の表情は変わらない。
ソファーに横になりながら、舐め腐った態度で私を見ていた。

『コイツ、そこまで怒るか?』みたいな兄の顔。
本当に最悪だ。

でもたかがシュークリーム。
それに対して怒る私も、少しどうかしているのかもしれない。

確かに甘いもの好きの兄がいる我が桑原家で甘いお菓子を見つけたら、兄は手を付けるだろう。
だったら食べるのは百歩譲っていいとする。

「そんなに旨くなかったぞ。コンビニとかスーパーとかの普通の店と変わんないって。つか絶対に裏でマスコミを買い占めてるよな?」

でも『旨くない』と言いながら、全部食べるのは絶対に間違っている。
それだったら一口くらい残してくれてもいいはず。
そもそも私のだし・・・・。

・・・・・・・・。

あーもう、イライラする。
お兄ちゃんの顔なんか見たくないし。
食欲もなくなり、苛立ちを隠せない私は気分転換にどこか行こうかと思った。
ちょうど楽器屋で楽譜を探したかった所。

酔っ払いと一緒にいるより、楽譜を買いに行く方が絶対にいい。

「そんなにあのシュークリームがいいのか?お前、変わった子だな?」

「うん。あれじゃないと嫌だ。でももういい」

もちろん理由はある。
けど兄に言っても伝わらないから、死んでも言いたくない。

絶対にバカにされて笑われる。

「わかった、わかった。じゃあお兄ちゃんがシュークリーム作っておくから茜は遊んでこい。茜が帰ったら頃にはビックリするシュークリーム作っておくからよ」

そういう問題じゃない。
別にシュークリームが食べたいわけでも、お詫びで兄が作る必要もない。

私の気持ちなんて誰にも伝わらないだろう。
言ったところで、笑われる。

苛立ちを隠せない私は自分の部屋に戻って出掛ける支度をすると、兄に声をかけずに家を出た。

本当に最悪な気分・・・・。