ルビコン

時間は昼の二時を回ろうとしていた。
空腹の私はとりあえず台所の冷蔵庫へ向かう。

何か食べれそうなものがあればと思ったが、そこには卵と昨日作った味噌汁の残りだけ。
米は炊かないとないし、即席で出来るレトルド食品もお菓子もない。

食べることに関心があまりない私は、外出をしてまで昼御飯を食べようと思う気がない。

めんどくさいから卵と味噌汁でなんとかしよう。
あまり料理は得意じゃないが、一応私も料理は作れるし。

まあ自分の作った料理は一度も美味しいと感じたことはないんだけど・・・・・。

「お兄ちゃんはなんか食べる?」

なんで聞いたのだろうと、私は言ってから後悔した。

「とびっきり上手い飯!ってか、つまみ作って」

「食材ない」

「じゃあ明太子食べたいな。無着色の」

そんな高級品、あるわけない。
つか私の話を聞け。

「却下」

「じゃあいらん」

やっぱり時間の無駄だったと私はため息を一つ。
自分のご飯だけ作ろう。

卵しかないし、目玉焼きでも作ってみよう。
だけどお兄ちゃん、ビールだけで今日一日過ごす気なのかな?
もしかして、朝御飯は食べたのかな?

「朝から何か食べたの?」

兄はすぐに答える。

「缶ビールとアンタのシュークリーム。それだけ」

・・・・アンタのシュークリーム?

・・・・・は?

そのふざけた兄の言葉で、私の中から怒りの感情が込み上げてきた。

「ちょ、はぁ?なんで?『絶対に食うな』って言ったじゃんか!」

「そうか?まあいいじゃん」

「ふざけんな!」

それは私にとって大切なシュークリーム。
城崎さんのお土産で昨日貰ったけど、お腹の調子が悪かった私は翌日の今日に食べようとしていた。

テレビでも紹介された、すごく美味しいと評判のシュークリーム。

と言うか『お兄ちゃんへ。絶対に食べるな』とわざわざメモまで残したというのに、なんで食べる?
意味わかんない。

え、マジで意味わかんない・・・・。
私は慌てて再び冷蔵庫を確認するも、シュークリームは何処にもない。

まさかと思ってゴミ箱も見てみると、シュークリームの入っていた袋と、私が描いたメモが見つかった。

一体コイツはどのような神経をしているのだ。

ふざけた神経の兄の声がソファーの上から聞こえる。
「いいじゃねーかよ、お兄ちゃんは毎日お前のために嫌というほど働いているんだからよ。俺、甘いものは大好物なんだから仕方ないだろ?」

「でもあのシュークリームは」

「あーもううるせーぞ。全然ドラマが聞こえねぇーだろ!」

「ふざけるな!」

城崎さんが今流行りの店に並んでくれて、私も楽しみにしていたのに。
本当に最悪な気分だ。

ホント、最悪・・・・。