私は樹々の事を友達だとか言っているが、正直言って『松川樹々という女の子』の事をあまりよく知らないのが本音。
家族の事とか過去とか、好きなこともよく知らない。

でも気が付いたらいつも隣にいる。
お互い素顔を明かしていないのに、『お互いを頼っていた』というか。

『信頼しあっている』というか。

でもこうやって樹々が泣いている時に、私は声を掛けることが出来ない。
『樹々の知らない過去の事』とか、『今の樹々の気持ちが分からない』と無理矢理理由を付けて私は逃げているだけ。

そんなので私は樹々の事を友達と言っても良いのだろうか。
何もせず、泣いている友人をただ黙って見ているしか出来ないのに。

目を逸らすことしか出来ないのに。
本当に情けないよね・・・・・。

・・・・・・。

だったら今は私が頑張らないと。
行動しないと。

私が樹々を助けないと。
「だ、大丈夫だよ!辛くなったら私に言ってよ。樹々の過去ついてはまだ分からないけど、私も辛いことは経験したし。城崎さんのように、アトバイスは出来ないけど、愚痴くらい聞くことは出来るから」

強引に組み立てた言葉だけど、こんなこと言える私って成長しているのだろうか。
数日前まで・・・・いや、つい数時間前は支えられる側の人間だったのに。

私らしくない・・・・・・・。

でも私は何度も樹々に助けてもらった。
何度も明るい笑みを見せてくれて励ましてもらった。

音楽祭の帰り道、愛藍と再会して心がどんよりしていたあの日。
突然現れた黒髪の少女を見て私は救われた気がした。

あのまま樹々に会えずに帰ったら私、部屋でまた泣いていたかもしれないし。

だから『今度は私が樹々を支える番だ!』って、自分に言い聞かせる。
友達が困っていたら助けるのが友達だ。

私は樹々の手を握った。
樹々は驚いたのか、泣き顔で私の方を見る。

同時にようやく自分が泣いていると理解したのか、慌てて浴衣の袖で涙を拭いた。

そして樹々は私に笑顔を見せた。

目の下を赤く染めて、彼女がいつも見せる、嘘に染まった満面の笑みを見せてくれる。

でもそれが今の私には辛かった。
『いい加減、素直になってほしい』と私はそんなことを考えていた。

まあでも、もっと素直にならないといけないのは私の方だけど・・・・・。

そんな私に樹々は言葉を返してくれる。

「ありがと、茜。あたし、頑張るね」

頑張るか・・・・。

もう無理しなくてもいいと私は思うんだけど・・・・。