ルビコン

目の前の花火はとても綺麗だった。
一年ぶりの光景に、ようやく私から笑顔が溢れた。

夜空に咲く綺麗なカラフルな花。
まるで真っ暗な私の心を照らしてくれるような光のよう。

何て言うか、『明日から少しだけ頑張ろう』と思った。
たまには『シューカツ』でもしてみようかな?

そんなことを考える中、何の前触れもなく突然樹々に声を掛けられた。
花火に混じって樹々の暗い声が聞こえる。

「ねぇ茜、今怒っている?」

振り返った先には、何故だか落ち込んだような表情を見せる樹々の姿があった。

って、どうしたの?

「えっなんで?私、怒った顔していた?」

「そうじゃなくて。何となく・・・・。あとごめんなさい」

その事葉に、私は違和感を抱いた。

謝るなんて樹々らしくない。

「なんで怒る必要があるの?」

「だってある意味今日の出来事って、あたしのワガママから始まったじゃん。嫌な思いさせてないかな?って」

そう言えば今日は『樹々に一発殴ってやる』と決めて家を飛び出したんだった。
だったら、今がチャンスかもしれない。

「駅でだいぶ待たされたね。紗季も体調よくないのに」

嫌味で言ったつもりだった。
どう反応するか楽しみにだった。

樹々はまた笑って誤魔化すのかって思ったのに。

・・・・・・・。

と言うか、笑って欲しかったのに・・・・・・。

「ごめん!本当に、ごめんなさい!」

何度も頭を下げて樹々は謝っていた。
こんな友人の姿、見たことない。

と言うか見たくない。

だから私の思い出した怒りは何処かに消えてしまった。
許した訳じゃないけど、『何だか可哀想だな』って。

いや、『可哀想』じゃなくてただただ変。
まるで本物の松川樹々を見ているよう。

・・・・・。

こんなの樹々じゃないよ。