いつのにか顔を赤く染め、動揺した私は慌てて車の影に身を隠した。
何だか見てはならない光景を見てしまった気分だ。

と言うか見たくなかった。
経験のない人間には、刺激が強すぎる・・・・・。

男性は自分の車に乗り込むと、少女を置いてこの場を後にする。

取り残された少女はポケットに入った携帯電話で時刻を確認すると、屋台の並ぶ祭会場へ向かった。
今度は男性から貰ったお金でお祭りを楽しむのかな?

でもその途中、徐に少女は独り言を言い出した。
幼い少女の声が私の耳にも届く。

「ねぇらアンタ見てたでしょ。赤い浴衣のお姉さん」

いや、独り言じゃない。
そう感じた私は恐怖に包まれる。

車の影で隠れて見えないはずなのに、なんで気が付いたいたのだろう。

でも隠れていても仕方ないのが事実。
相手は私より年下の女の子。

『何を怖がっているのだ』と自分に言い聞かせると、私は少女の前に現れる。

「何?見てないけど」

「嘘はよくないよ。ってかお姉さん、強がっているでしょ?」

図星だった。
まるで紗季のように嘘が通用しない。

って言うかこの子、なんだか紗季に似ている気がする。
見た目は中学生と言ったが、改めて近くで見たら小学生高学年にも見える。

明るい茶色の髪色は城崎さんのような短いショートヘア。
首には何万円もしそうな大きなヘッドホンをぶら下げている。

派手なメイクではないが、樹々のような薄いナチュラルメイク。
『ガキの癖にメイクをしているのか?』と思ったが、その可愛らしい表情は何故か今日のメイクをした紗季を思わされる。

どうしてだろう。

少女は続ける。

「ねぇ、お姉ちゃんって桑原茜でしょ?」

その質問に、私は冷静だった。

どこで名前を知ったのかは分からないが、私は無理矢理作った冷たい表情で少女を見つめた。

「コンクールで知ったの?」

私の名前を知る人全員の共通点は、『ピアニスト桑原茜』の存在を知る人。
人との交流を避け続けていた私だ。

それ以外は有り得ない。

「コンクールってなに?お姉ちゃんすごい人」

「えっ?」

有り得ないからこそ、私は戸惑った。
なんて言葉を返したらいいのか分からない。