ルビコン

紗季の会話を振り返ってみたが、結論で言ったら正直何も変わらない。
謝ると言う最終ゴールは見えたが、葵に会うのはまだ心の準備が必要で、愛藍に会う勇気もない。

まだ体が動こうとしない。

でも愛藍とは同じピアノを弾く者同士、またこの前みたいに会う機会があるのかもしれない。

だから愛藍と話すのはその時でいいかな?って思った。
葵は今度城崎さんに相談しよう。何度か葵もカフェに来たことあるみたいだし。

そろそろ戻ろうかと、ベンチから腰を上げる。
花火も中盤だし、せっかく祭りに来たのだから楽しまないと。

言い訳作りに私は自動販売機でお茶を一つ購入。
そしてそれを片手に、樹々や紗季が待つ場所へ戻ろうと足を動かす。

また痩けないように注意して歩かないと。

そんな中、変わった光景が私の目に映る。

花火や屋台の光などで今は比較的明るい駐車場の一角の光景。
恋愛ドラマで見たことのある、現実離れした光景に私は思わず目をそらした。

恐らくカップルだろう。
ならばキスの一つや二つはするのは当たり前なのかもしれない。

だがその妙な光景に私は疑う。

男性の印象は、紺のスーツ姿のサラリーマンのような若い人。
年齢は恐らく二十代前半だろう。

ちょっとイケメンかも。

一方の女性はというと小柄な体型に幼い顔立ち。
緑色のチェックのミニスカートを履くその人物の姿は、まるで中学生と思わされる容姿だった。

と言うより中学生にしか見えない。
いや、小学生?

・・・・・え?

二人は再度キスを交わす。
そして男性は財布から札を取り出すと、それを少女に渡した。

明確な額は分からないが、一枚では無いことは確かだ。
それも一万円札。

というよりどんな関係?
お金を渡すって、絶対に普通じゃないよね?

まさか、『援交』ってやつ?