「葵くんにはあって、愛藍くんにはない何かか。なんだろうね、それ」

「わかったら苦労しない」

「だよね。多分茜ちゃんにしかわからない何かだと思うし。ゆっくりり考えてみたらいいと思うよ。って、考えるのが辛いんだもんね」

その紗季の言葉の後、樹々が戻ってきた。
少し浮かない表情で私の元へやって来る。
「トイレ遠いよ」

「もう。だから来る前に行こって言ったのに」

「だってその時は行きたくなかったんだもん!」

紗季と樹々の会話を止めるように、私は立ち上がった。
さっきの会話は止めた方がいいみたいだし、祭りを楽しむ樹々を暗い表情にさせたくないし。

「私、飲み物買ってくる」

別に喉は渇いていない。
ただ一人になりたかっただけ。

今後のことを少し考えたかっただけだ。

「えー、茜ちゃんも?みんなで花火を見ようよ」

残念そうな紗季の表情に、私は曖昧な笑顔を見せながら軽く手を振った。

どうして私がこのタイミングで出ていったのか。
今私が何をしたいのか。

きっと紗季にはまるわかりなんだろう。

そんなことを考えながら、私は梺まで向かった。
慣れない浴衣姿と下駄に、何度も転びそうになったのは秘密だ。梺まで降りた

私が向かった先は、城崎さんの車が止まっている駐車場。
車で来ている人は多く、車の空きスペースは一つもない。

ここからでは山に隠れて花火を見ることは出来ない。
そのせいか周囲には人の気配はなかった。

会場から少し離れていることもあってか、辺りはかなり静かな空間だし。
たまに花火の音が聞こえるくらい。

私は自動販売機の近くにあるベンチに腰掛ける。
『城崎さんから浴衣を借りたというのに、何をしているのだろう』と自分を責める。

同時に私は紗季との会話を整理していた。

私は一体どうしたいのか?
彼らに何がしたいのか?

復縁、絶縁どちらを選ぶかのか?って考える。

・・・・・。