「懐かしい香りがした。葵の香り。勿忘草の私の大好きな香り。だから葵とぶつかって転んだ。お兄ちゃんに買って貰った服も汚しちゃった」

「勿忘草の香りで葵くん?」

私は小さく頷いた。

やっばりおかしな話だよね。
顔も見てないと言うのに、香りで葵と決めつけるなんて。

人違いだったら私、ただのバカだし。

「私、どうしたらいいのかな?葵との関係」

紗季は何も答えずに頷いただけ。

だから私は続ける。

「この前の音楽祭、愛藍と再会した時に『葵と一緒に謝りたい』って愛藍が言っていたのを思い出した。私、また二人と会った方がいいのかな?」

その時、今日一番の大きな花火が打ち上げられた。
こんな綺麗な花火、ここにいる葵は見ているのだろうか。

その花火に視線を戻した紗季の表情は変わらない。
何度も見せている初めて花火を見る子供のような笑顔だ。

いつもより明るい笑顔。

でも今はその笑顔が少し怖いと思った。
紗季は再び私に視線を戻すと問い掛ける。

「ねぇ、逆に聞きたいんだけどさ、茜ちゃんは葵くんとどうしたいの?」

「どうしたいって」

何で迷うのだろう?
答えは分かっているはずなのに、どうして逃げちゃうのだろう。

遠回しに逃げて、何になるのだろう。
さっき城崎さんに言葉を貰ったのに。

やっぱり私、変わるのは無理なのかも。
現実の壁を見たら、やっぱり怯んでしまう。

大事な人に背中を押されても、まだ前向いて歩けない情けない自分がいる。

そんな情けない私に、紗季は問い掛ける。

「じゃあ茜ちゃんは葵くんや愛藍くんのこと許してあげるの?今までされたいじめに対して、許してあげるの?」

紗季、それは違うよ。

「『許してあげる』のって言い方は変だよ。悪いのは全部私なんだから」

「どうして?」

「私が『花でも食べさせたら?』って言わなかったら、こんなことにならなかった。私が引き離す原因作ったから、葵と愛藍は私に仕打ちをした」

直後私の言葉に何故か紗季は笑いだした。
花火の音を書き消すような大きな笑い声。