「ねぇ紗季」

「どうしたの?」

こんなタイミングで話すのはどうかと思っている。
ただ紗季には話しておきたい。

でも・・・・。

「ごめん、なんでもない・・・・」

隠すつもりはない。
でも『こんな楽しい時間に話すのは、何か違うなら』って。

そう思っただけ。
と言うかやっぱり辛くて話しづらい。

一方の紗季は私の震えた声を理解するのに時間は掛からなかった。
花火を見つめながら私に問い掛ける。

「何かあったの?城崎さんとずっと話していたんでしょ?」

その紗季の言葉に私は息を呑んだ。
まるで私の考えている事を覗かれているみたいだと思ったから。

そもそも城崎さんと車内で話したことを言ってないし。

だから私は否定する。
「いや、なんでもないよ。浴衣の着付けに、時間がかかっただけ」

嘘ではない。
私は浴衣なんて着たことないから知識はゼロだし、城崎さんも浴衣の知識はあまりないようだった。

だから浴衣の本当に着るのに時間がかかっただけ。

でも嘘が絡む真実に、私自身が戸惑う。
気が付けば私の指は無意識に動いて動揺していた。

そういえばこの前樹々に『自分が嘘や隠し事をするとき、指が動くって自分で気付いてる?』って言われたっけ。
紗季には知られていないといいけど。

でもその考えは甘かった。
いつの間にか紗季は花火から私に視線を変えて、私を見つめている。

「服汚してから変だよ。嫌なことでも思い出した?それとも葵くんとまた会ったの?」

そういえば紗季。嘘には敏感で、昔から私の小さな嘘は絶対に見逃さないよね。
なんだか探偵さんみたい。

まるで私の心を読んでいるような紗季の言葉に、私は頷くことしか出来なかった。
同時に自然と私の表情も暗くなる。
紗季が相手なら、私の嘘はすぐにバレてしまう。

洞察力が凄いのだろうか。
人を観察して、相手の思考を読み取る。

それがきっと、山村紗季の凄いところなんだろう。

大人しく、可愛らしい顔をしているのに。
どこにでもいる普通の女の子のように見えるのに。

そんな紗季に私は素直に話す。
逃げても意味ないと感じたから、今日の出来事を話す。