「はい!メロディーがスッゴく好きで。聞いてて凄い落ち着くっていうか。元気が出るっていうか。とにかくすごい曲っていうか!」

好きなものを共有出来るって、こんなに嬉しいものなのだろうか。
知らない自分が勝手に現れて暴れていているけど、それもいいかなって思う自分がいる。

だってすごく嬉しいし。
楽しいし。

桜さんは優しく笑う。

「そうなんだ!やっぱりいい作曲家なんだね。でもあたしはあんまり聞いたことなくて。でもお父さんがすっごく好きみたい」

「すっごくいい曲ばかりですよ。えっと・・・・桜さんもぜひ聞いてみてください」

無意識に私は桜さんに笑顔を見せていた。

『K・K』は名前と出身地しか公開しない作曲家。
顔も性別も分からないし、コンサートも開いたことがない。

そんなかなりマイナーな作曲家だけど、私は好きだ。
毎日聞いているし。スッゴく癒される曲だし。

「桜さんは好きな作曲家とかいるんですか?」

私の言葉に桜さんは首を左右に振った。

「ううん。私、音楽自体好きじゃないっていうか。
演奏とかは好きなんだけと、聴くのは好きじゃなかったな」

桜さんは自分のアイスミルクティーと思われるドリンクを一口飲むと、昔の自身の出来事を話してくれる。

「コンクールでの『順番待ち』っていうのかな?客席で他校の演奏聞くあの時間が嫌いっていうか、聞きたくないって言うか。でも今考えてみると、他校の生徒も下手くそだったから聞きたくなかったんだよ。桃ちゃんとよく抜け出してたし」

その桜さんの言葉に、私は何となくだが共感は出来た。

私もコンクールの際は常に会場の外に出ているし、他人の演奏に影響されたくないのが私の表向きの理由。

でも本当はピアノを弾くことしか興味がなく、他人の演奏を鑑賞することには興味がないのが本音だ。
他人の演奏を聞いたら、不思議と眠たくなる。

まあ『K・K』は特別だけど。
「そうだ!ケーキ食べない?シロさんのケーキすっごく美味しいんだ!一個だけなら無料だから貰いに行こうよ」

突然桜さんは立ち上がり、笑顔を見せて私に提案する。

驚いた私は慌てて笑みを見せた。

「えっはい。そうですね」

と言うか私、いつの間にか笑っている。
『早く帰りたい』は、どこかに消えている。

私は席を立った途端、桜さんに背中を押されながら、私は再びカウンターへ向かう。
同時にカウンターにはさっきまで居たクラスメイトの姿がないことに気づいた。

居たって変わらないが、何となく気になった。
桜さんも彼のいた席を気にしていたいたみたいだし。

なんでだろう。