ルビコン

「えっと・・・・、江島葵とさっき会いました」

私の手は震えていた。
きっと私、怖い顔をしているのだろう。

そんな私の表情から目を逸らさない城崎さん。

「本当に葵くん?」

「えっと・・・・顔は見てません。でも彼から懐かしい香りがしたので」

「それって確か勿忘草だっけ?いい香りするもんね」

私は小さく頷いた。

「葵くん、実家は花屋さんだもんね」

城崎さんの言葉に私は再び頷く。
私が何も言葉を返さなかったので、城崎さんは続けた。

「小学生のあの出来事。やっぱり」

城崎さんは再び何かを言おうとしたのだろうが、私は再び吐き気に襲われる。
耐えきれない症状に思わず私は口を押さえる。

そんな私を見た城崎さんは私を抱きしめてくれた。
ぎゅっと強く、まるで『絶対に離すか!』と言うように・・・・。

暖かい。
これが人の温もりなんだろうか。

こんなの初めてかもしれない。

「だ、大丈夫です。あと、すいません」

「どうして茜ちゃんが謝るの?茜ちゃんは悪いことなんてしてないでしょ?」

本当にそうかな?
『ウサギに草でも食べさせたら?』そう私が言わなかったら、こんなことにはならなかったはずだし。

あの一件がなければ私は今頃、葵や愛藍とこの夏祭りに来ていたのだろうか。
彼らと同じ高校や中学に通っていたのだろうか。

紗季や樹々、そして橙磨さんに出会うことは無かったのだろうか。
今の桑原茜は、どんな桑原茜になっていたのだろうか。

私が彼らの関係を壊した。
それは紛れもない事実。

だからこそ、私は罪を償った。
彼らの攻撃を受け続けた。

涙も見せなかったし、私はいじめられて当然だと思った。
それに中学時代も辛いのが本音だけど、それも罰だと思ったら三年間もあっという間だった。

そしてこれから先、まだまだ災難が私に降り注ぐのだろう。
まだ彼らの怒りは収まっていないし、神様も私に対して怒っている。

桑原茜と言う悪魔を退治しようとしているんだろう。

・・・・・・・・。

そっか。
さっき葵とぶつかったのも、私への罰なんだ。

お気に入り服も泥で汚れたし。
あれお兄ちゃんに誕生日プレゼントで貰った大切な服なのに。

帰ったら怒られるんだろうな。

そんなことを考えていたら、私の目からいつの間にか涙が溢れていた。

『まだこんな辛い思いをする必要があるのか?』と思ったから。

・・・・・・。