ルビコン

どこかに座りたかったが、そんな場所はない。
橙磨さんの屋台で一休みでもしようかと考えていたが、目的地には程遠い。

どうやら私達はかなり奥の方に潜り込んでしまったみたいだ。
どこを見渡しても全く知らない風景ばっかり。

まるで知らない国に来てしまった気分。
時間が経てば人が多くて密度が凄くなる。
徐々にその知らない風景も、人ばかりに変わってきた。

樹々と紗季の姿も集中していないと見失いそう。
黄色と紫の浴衣を着た二人だから、まだ目立つし分かりやすいけど。

でも先を行く二人と距離が開く。
追い付かないと本当に置いてかれそうだ。

ただでさえ人混みの中にいると不安になるのに。

そんな私に災難が降りかかる。
急いで前を進む男の人とぶつかった。

その反動で私は大きく転けてしまった。
同時にこの動作で完全に二人の行方を見失ってしまった。

私は自力でなんとか立ち上がるも、お気に入りのシャツには泥が付いていた。

そういえば今朝から昼までこの地域で雨が降っていたっけ。
ぬかるんだ土が服が付いたのだろう。

そんな私に男の人が謝っている。
顔は見ていない。

「ご、ごめん!本当にごめんなさい!」

その男の人の声に、私は何故か懐かしく感じた。
それについ最近その声を聞いたことあるような・・・・。

それと彼から凄く懐かしい香りがした。
幼い頃に何度も嗅いだ花のような私の大好きな香り。

・・・・・・・・。

確かこれ、勿忘草だっけ。
昔の私の親友と同じ香りだ。

「本当にごめん!じゃあ、その・・・・・、急いでいるので」

そう言って彼は、再び小走りで人混みを潜り抜けていく。
背の高い男の子は人混みの中に消えていく。

一方の私は、頭の中が真っ白になる。
同時に頭痛と吐き気が襲ってきた。

この前のカフェ会と同じ気分だ。

それと音楽祭の日、柴田愛藍に江島葵の話をされた時。

・・・・・・・・・。