ルビコン

目の前の男の子は川島橙磨さん。
校則違反の茶髪やピアスは不良少年を連想させるが、見た目は女の子ウケしそうでカッコいい。

それと男の子にしては小柄なのに喧嘩は強い。
この前は不良二人にやられていた私を助けてくれたっけ。

そんな彼は中身は友達想いの優しい男の子。
正直言って、初めて橙磨さんを見た時は、危険なイメージを持っていた。

留年している二つ歳上だし、いつも橙磨さんはクラスでは一人だったし。
他の人を寄せ付けない特別な雰囲気があったし。

だけど彼と話してみたら、妹想いの優しいお兄さんだった。
あと料理上手。

あと私の勝手な想像だけど、絵とか上手そう。

そんな彼の印象をまとめるなら、友達に優しくて妹を想い続ける、料理の得意な留年生。

それ以外はまだ正直知らない
。彼の過去についても、まだ詳しく知らない。

なんで留年しているのか私は分からない。
でも『友達というには、それだけで充分なのかな?』と思う自分もいる。

と言うか、『お互いの事を知らなくても、お互いが信頼しあったらもう立派な友達だ』
と、樹々が前に言っていたし。

「たこ焼ちょうだい!」

その樹々はたこ焼の匂いに釣られたのか、紗季の持つたこ焼きを一口で食らいついた。

と言うか焼きたてを一口で食べて熱くないのだろうか?
だとしたら恐ろしい子。

「川島さん!めっちゃうまいっす!」

「当然でしょ?僕に作れないものはないんだから」

樹々のいつもの笑顔に橙磨さんは嬉しそうにピースサインを見せた。
それを見た樹々も元気にピースサインを橙磨さんに見せる。

私と紗季も作りたてのたこ焼きを一つ口に運ぶ。

だけど熱がこもった焼きたてだ。
紗季は熱さに耐えきれずに涙を流している。

でもそれは私も同じ。
口の中が火傷しそうだった。

猫舌の私にはかなり苦しいが、味は本当に美味しい。
とろけるように口の中に消えていく。

そして『私もあんまりたこ焼きなんて食べたことないな』と振り返っていたら、たこ焼きはいつの間にか消えていた。
熱いと分かっているのに、私達は手が止まらなかった。

こんなに美味しいたこ焼き、初めて食べたかもしれない。