「このTシャツ着ながら屋台の店番していたら、広告料として時給出してくるってさ。いいところでしょ?桑原さんも働いてみる?」

え、働いてみる?

「えっと・・・・その」

当然のスカウトに私は戸惑う。
通うにしても家から遠すぎるし。

学校とは真反対だから、学校帰りに働きに来るのもなんか違うし。

そうやって考える私を見て、橙磨さんは笑う。

「あはは。冗談だって」

まるで子供のような無邪気な橙磨さんの笑顔に釣られて、私も小さな笑みを見せていた。

私は小学生と中学生はみんなとは少し変わった学校生活を送ってきたからか、高校生になった今も父からアルバイトは禁止されている。

だから高校三年生になってもまともに他人と喋れないし、縦社会もよく知らない。
家族や学校以外での人との関わりと言えば、ピアノ教室の二人の先生くらい。

だから進路も曖昧なのだろうか。
だとしたらもっと頑張らないといけないのだけど、イマイチやる気がでない。

と言うかやる気の出し方が分からない。
焦りはあるけど、どうしたらいいのか分からない。

何に手をつけたらいいのかすら全く分からないし。

そもそも誰に聞いたらいいのか分からないし。

だから最近未来について考えると、少し頭が痛む・・・・。

橙磨さんは焼鳥店で調理経験もあるか、見事な手捌きでたこ焼きをひっくり返す。
何だかスッゴク格好いい。

その時私の隣にいる紗季が私の視界に入る。

紗季は橙磨さんがのたこ焼きを作る姿に夢中だった。
まるで初めてたこ焼を作る姿を見る子供のような表情。

そんな紗季に、橙磨さんも気が付く。

「山村さん、もしかしてたこ焼きとか初めて?」

橙磨さんの声に我に返った紗季は恥ずかしそうに頷く。

「祭りは殆ど来たことないから・・・。体弱いし、両親に常に反対されていたから。両親がいると祭りに来れるんだけど、共働きで仕事で忙しいし。でも最近、『妹と一緒ならいい』ってお父さんが言ってたから。でも妹も最近家にいないし」

その言葉は紗季の人生を物語っていた。

目の前にやりたいことがあるのに、それを許してくれない人生。
自分は周りとは違う人間なんだと常に考えさせられる日々。

一方で紗季が普通の元気な女の子として生きていたら、どんな山村紗季になっていただろうか。

そんなことを思ったら、私には言葉が出てこなかった。
友達として、どんな言葉を紗季にかけてあげたらいいのか私には分からない。

『樹々だったらなんて言うんだろう』と、そんなことばかり考えていた。