まだ始まっていないのは分かっているが、初めて会った人との会話は苦手だ。
緊張して愛想笑いも出来ない。何も返す言葉が見つからない。

そんな私を他所に、隣の樹々と美空さんは楽しい会話を繰り広げていた。

「樹々ちゃん進学できそう?私の大学来る?馬鹿でも入学も出来ちゃうし、今なら映画研究サークルに入れる特権与えちゃうぞ」

「進学出来るならしたいですけど、マジで留年しそうってか。今日の進路相談でかなりマズイって言われたし。ってか映画研究サークルって何するんですか?」

「映画を観賞するだけ。そしてたまに映画を撮影しに行くけど、『私たちには映画の撮影なんて無理だねー』って言ってまた映画鑑賞に戻るだけのサークル」

「ただの駄目サークルじゃないてすか!」

「だっていざやろうと思ってもなんかやる気が出ないっていうか。いつの間にかみんなから『ヤルヤル詐欺の美空』って言われてるのだけれど」

「あたしもありますね。スッゴいわかります!やって言っときながら、全然しないの!」

「でしょ!」

意気投合する樹々と美空さんの会話を聞きながら、私はオレンジジュースをストローですすった。

同時に何度も『早く帰りたいな』と思いながら、いつの間にか指を動かしていた。
授業中に退屈だと感じたときに、つい癖で動かしてしまうピアノを弾く仕草。

「ピアノやってるの?」

優しい表情で桜さんはにっこりと笑った。
どうやら、私の仕草を見抜かれたみたい。

私は少し警戒しながら答える。