そんな樹々がたどり着いた場所はのたこ焼き屋さんの屋台。
その中に誰かいるのか?と思いながら私と紗季は樹々の後を追う。

屋台の中にいたのはこの前行ったカフェの店長さんの城崎美憂(シロサキ ミユウ)さんと、私のクラスメイトの川島橙磨(カワシマ トウマ)さんの姿。
正直言って驚いた。

そして城崎さんは私と目が合うと笑う。

「あら茜ちゃん、紗季ちゃん!こんにちは!来てくれたの?」

「こ、こんにちは。どうしたのですか?こんな所で」

私の質問に城崎さんは苦笑いを浮かべる。

「うーん、店にいても暇だからね。ちょっとした小遣い稼ぎ」

「え?」

それは『店を閉める』と捉えてもいいのかな?

でも直後、城崎さんは発言を撤回する。

「ウソウソ、橙磨くんの手伝いよ。橙磨くんが働いているお店の店長さんがやる予定だったんだけど、腰痛が酷くて来れないって。だからウチに貢献してね」

城崎さんは私に手を差し出している。

どうやら遠回しに、『たこ焼きを買え』と言っているようだ。
と言うか身内なのに奢ってくれないのかと少し不満。

そんな城崎さんを見て私は『こういう大人にはなりたくないな』と、少しだけそんなことを考えてしまった。
いい人なんだけど何だか残念。

一方の橙磨さんはまだ私達に気が付いていない。
何て言うか、とても深く考え事をしているみたいだ。

焼き上がるたこ焼を見て、自分は氷付けのように表情はびくとも動かない。

「川島さん?」

そんな彼に私は声を掛けてみた。
橙磨さんは少し驚いた表情を見せる。

「あぁ、桑原さん久しぶり。元気していた?」

見間違えかのように、橙磨さんはいつもの表情に戻る。
もしかして意識の戻らない妹のことを想っていたのだろうか。

「私は元気です。今日はたこ焼き屋さんなんですか?」

「まあね。ちなみに僕が着ているシャツは僕のバイト先の制服。僕、この近くの焼き鳥屋でバイトしてるんだ」

橙磨さんが着る黒のTシャツには『焼鳥若竹屋』と書かれていた。
この辺りでは有名な焼き鳥屋さんみたいだけど、この町に馴染みが無い私はどこにその店があるのかさっぱり分からない。

と言うかこの町は橙磨さんの住む町なんだろうか?

橙磨さん続ける。