電車に揺られて約三十分。

長い時間にも思えるけど、『夏休みの今後の予定をどうするか』と言う話題をみんなで考えていたら、あっという間に時間が過ぎた。
『やっぱり楽しい時間はあっという間』だと再認識。

着いた場所は緑の山と青い海が広がる自然に囲まれた小さな町。

近くに神社があるだけで、他に何もない田舎町と言えば正解なのだが、今日は違う。
食欲をそそる美味しそうな匂いが町から漂っていた。

初めて来た場所だ。
町の姿は盛り上がる人達と屋台で、夏祭りそのもの。

夜には花火も打ち上がるらしいく、本当に絵に書いたような夏祭りだ。
何だか楽しみ。

私達は屋台が並ぶ道を歩く。
祭りはすでに始まっているみたいだが、まだ人は少ない。

恐らく日が暮れた頃が本番なんだろう。
噂では、『歩けないほど人が集まる』って聞いたし。

そんな中、私の中に二つの疑問が浮かぶ。

それは『樹々はどうやってこの祭りを知ったのだろう』と言う疑問がまず一つ。
それと『ここに誰か居るのだろうか?』と言う素朴な疑問。

目的地に着いた樹々はずっと周囲を見渡しているし。
まるで誰かを探しているみたい。

一方の紗季はさっきから楽しそうに笑みを浮かべている。
周囲の屋台を見渡してはまた笑う。

まるで初めて祭りに来た子供のような表情。

いや、きっと初めてなんだろう。

この前、紗季が言っていた。
『外出には友達や家族の同伴、もしくは両親の許可が出ないと外出は認めてくれない』・・・・らしい。

過保護な親だと周りから思われるけど、病弱の娘を思っての親の判断だ。
紗季を守るためだと思ったら理解もできる。

そんな二人を隣に、私達は夏祭り会場を歩いていく。
そして突然樹々は叫ぶ。

「あっ!いた」

樹々は何かに気が付いたのか突然走り出す。
でも慣れない下駄に、樹々は躓きそうになった。

『浴衣なんて来たことない』って言っていたし、下駄も履いたことがないんだろう。
さっきから樹々はぎこちなく歩いているし。