ルビコン

早速私の隣に座る紗季は、ポーチから小さなゲーム機を取り出して電源を付けた。
そういえば『最近発売された人気シリーズを買った』って、テンションが上がっていたっけ。

私にはゲームという環境を与えられなかったため、楽しいかどうかわからない。
紗季の家でゲームをやったことはあるが、『手加減』という言葉を知らない紗季にコテンパンにやられていた。

だから私にとって『ゲームが楽しいものだ』とあまり思えない。

でもゲームをする紗季の笑顔を見る限りでは、きっとゲームという遊びも楽しいのだろうと思わされる。
学校ではあまり見せない楽しそうな表情だ。

・・・・・・・。

なんか可愛いかも。

それにしても暑い・・・・・。
『紗季みたいに帽子をかぶって来たら良かった』と私は後悔。

冗談抜きで、このまま溶けたい気分だ。
もう何も考えたくない。

と言うか樹々はいつになったら来るのだろうか。
呼び出しておいて、姿が見当たらないとなると、後で説教が必用だ。

こんな暑さでも樹々への苛立ちだけは消えない。

どうやって樹々に痛い思いをさせてやろうかと考えていた最中、ぎこちない下駄の足音が聞こえた。
まさかと思って私は顔を上げる。

「ごめん!浴衣なんて着たことないから遅れちゃった」

目の前には黄色の浴衣を来た樹々が息を切らしていた。
『どこの不良少女だ?』と思わされるような、金髪姿の樹々だった。

だから私は疑問を抱く。

「どうしたのその髪の色?大丈夫?」

私の無愛想な言葉に樹々は怒った。
何も間違ったことは言っていないのに。

「『大丈夫?』の前に『可愛いね!』が先じゃないの?」

でも確かに樹々の言葉に間違いない。
浴衣の色と髪色が合っているという理由だからか、似合っていると思う。

正直言って『可愛らしい』と思った。
まるでアニメのキャラクターのような金髪姿の樹々。

だがそれはそれ。そこに辿り着いた経緯を知りたい。
就職活動中にも関わらず、髪色を不自然な金髪に染めてどうする。

流石に自由過ぎるし。呆れた友達だ。

そんな樹々は浮かない声で答える。