「うん、似合ってるよ」

私は小さな声でそう答える。
だけど何故だか紗季は不満げな表情だ。

「感情がこもってないよ茜ちゃん。本当に思っているの?」

めんどくさい・・・・。
そういえば紗季もあまり性格が良い方じゃなかったっけ。

優しい性格だけと、私を見るとからかうって言うか。

だから私はらしくない言葉を使う。

「いや、紗季が可愛すぎて辛い。抱き締めたい」

これで満足してくれただろうか?

私は『何を言っているんだ?』と思いながら、自分の頬を軽く殴った。
友達とはいえ、どうして私が紗季を口説いているのか自分で理解出来ない。

いや・・・・本当に可愛いんだけど、私はそっちの趣味はない。
一方の紗季の顔は赤く染まり、私と目を合わそうとしない。

照れる気持ちは何となく分かる気もするけど、女の私に言われてそんなに嬉しいものなのだろうか。

って、そんなことより疑問が一つある。

「どうしたの、その格好?」

私の疑問に、紗季は笑顔で答えた。

「うん。樹々ちゃんが『浴衣で駅に集合』って言っていたから。お母さんにお願いして着せて貰った」

開いた口が塞がらないとは、まさにこのことを言うのだろうか。
まさか他にも被害者がいるなんて思わなかったから。

「もしかして、茜ちゃんも?」

紗季の言葉に、私は無言で小さく頷いた。

「そうなんだ。でも夏祭りって来週だよね?」

「うん。私もそれを樹々に確認したら、馬鹿にされた」

今思うとまた苛立ちが募ってきた。
後で樹々を殴っておこう。

「なんだろうね?夏祭りって」

疑問は残ったまま、紗季は私の隣に座った。
蒸し風呂のような暑さに参ったのか、紗季は一息。

自動販売機で買ったと思われる水の入ったペットボトルを口に運ぶ。
同時に紗季の肩にぶら下げている紫色のポーチが揺れる。

まるで昨日買ったばかりのような新品のようなポーチだが、私は見覚えがあった。
それは私と紗季が初めて遊んだ小学六年生の春に時に買ったポーチ。