駅に着いてもいつもと変わらない風景が広がるだけ。
樹々の言う夏祭りの意味はなんだのだろうか。

そんな疑問を持ちつつ、周囲を振り返っても樹々の姿はない。
『まさか何かのドッキリ？』と、私は不安になる一方だった。

だから『破天荒な樹々ならやりかねないし、一応警戒心だけは念のために持っておこう』と思いながら、私は駅前のベンチに座った。

携帯電話を確認するも、樹々から着信もメールも来ていない。
そういえば樹々から待ち合わせ時間を聞いていない。

時間は昼の三時を回っていた。
雲一つない青空と、眩しい太陽が照るこの時間の気温は、今年一番の最高気温である三十八度まて上昇。

もう聞き飽きた蝉の鳴き声と共に、私の額からは無数の汗が流れる。
『いっそこのまま溶けてしまいたい』と、私は意味の分からないことを考えていた。

そんな溶けてしまいそうな暑さの中、聞き覚えのある声が聞こえた。
私の友達の声。

「茜ちゃん？どうしたのこんなところで？」

私は顔を上げる。その声の持ち主を確認しようとしたが、何かが違う。
いつもと違う容姿にただただみとれる。
目の前には綺麗な黒髪を三つ編みにした紫色の浴衣を来た女の子。
それと日差し避けに被っている麦わら帽子。

まるで雑誌から突如と現れたモデルさんみたいだ。
女の私だが、彼女の姿には見とれてしまう魅力があった。

目の前の女の子は山村紗季（ヤマムラ　サキ）。
彼女は小学生からの友達だ。

いつもポニーテールがチャームポイントの紗季だから、私は驚きを隠せない。

「紗季？えっ？」

「どう？似合ってるかな？」

照れくさそうに言うところもポイントが高い。
私が男だったら間違いなく恋に墜ちていたと思うほど可愛らしい姿だ。

それにいつも学校ではメイクをしない真面目な彼女だが、うっすらメイクもしている。
どうりで紗季が可愛いわけだ｡

・・・・・。

何だかずるい。