高校生活も残り一年を切った。
『思い出はあるか?』なんて聞かれても、『何もない』って答えてしまいそうなのが現状だ。

しかし『その現状に満足しているのか?』と問われたら、私はきっと頷くだろう。
何もないけど、気がつけばいつも友人の松川樹々(マツカワ キキ)と一緒にいる。

そんな今日も、彼女と一緒に帰っている最中だった。とある日の学校の帰り道のこと。

「茜は将来何するの?やっぱピアノ?」

「私も考えたことないかも」

私の曖昧な言葉に、友人の松川樹々は驚いた表情を浮かべている。

一方の私は『何でだろう』と私は考えた。

私、桑原茜(クワハラ アカネ)は中学一年生からピアノを始めた。
始めた理由は、家にピアノがあったからだ。

十歳も歳が離れた兄が幼き頃に趣味で始めた物らしいが、三日坊主で以後封印。
そのホコリまみれのピアノを私は掃除して、気が付いた頃には毎日のように弾いていた。

部活もやっていないし、打ちこむものもなかった私には、丁度良かったのかもしれない。

でも一人では楽譜の読み方も、どれが何の音かも分からない。
三日坊主の兄も素人同然で何も分からなかったため、私は近くのピアノ教室に通った。

結果的に名のある有名なコンクールで演奏をしてみないか、と声をかけられるようになっていた。
ホント、人生何が起きるかわからない。