『52Hzの鯨、知ってるか?』
いつかの帰り路、衣鶴が言った。
『クジラ? 周波数?』
『鯨とかイルカは周波数で意思疎通を図る。でも52Hzの周波数で鳴く鯨は唯一だって言われてる』
『自分以外の人間は違う言語話してる、みたいなこと?』
想像して話すと、衣鶴が「おお」と感心していた。
『そういう感じ。もっとも孤独な鯨って言われてる』
『へえ、それは難儀な。でもまだ、出会ってないだけだろうな』
世界は広いのだから。
どこかにはきっといる。
誰かが憐れんで孤独だと呼んでも、その鯨はどこかで出会う。
自分の唯一に。