完成した出来立ての豪華な料理を食卓に運んでいた時のことだ。

なんの前触れもなく、突然大きな音が聞こえた。
何かが倒れる不気味な音・・・・・。

振り返った先には、台所で横たわる姿のお母さんの姿があった。
お母さんはうつ向けに倒れて、持っていた出来たての料理も床に落ちてしまっている。

二人で作った料理が台無し・・・・。

そんなお母さんを見て、私は慌てた。
『お母さん!』と、お母さんのもと駆けつけた私はお母さんの耳元で何度も叫ぶ。

・・・・・。

でも、お母さんは目を覚ますことはなかった。
下を向いたまま全然動かない。

当時十歳の私にはこんなときにどうしたらいいのか分からなかった。
私もお母さんが倒れたことに対して、頭が混乱しているから『救急車』なんて言葉は出てこない。

だけど、すぐにお父さんには電話した。
泣き叫びながら、お父さんに現状を説明する私・・・・・。

でもうまく伝わらなかった。
頭の中がごちゃごちゃで、ただただお父さん相手に電話越しに泣いていた。

その時の武瑠は、突然倒れるお母さんと泣き叫ぶお姉ちゃんの私の姿に不安になって、私と一緒に泣いていた。
お母さんの隣で、私達姉弟は、『泣くこと』しか選択肢は残されていなかった。

本当に、『何も出来ない私』だと、振り返って改めて思う・・・。

そしてすぐに、お父さんとおばあちゃんは帰ってきた。
お父さんは血相を変えてお母さんの元へ寄ると、私同様に何度もお母さんの名前を呼んでいた。

でも結果は同じだから、すぐに救急車を呼んだ。

救急車が来るまでに時間が掛かったけど、お母さんはすぐに大きな病院に運ばれた。
そしてすぐに手術も行われたけど・・・・・・。

・・・・・・。

もうすべてが手遅れなお母さんの手術は、あっという間に終わってしまった。
担当の先生は申し訳なさそうな表情で私達に頭を下げていた。

お母さんの突然過ぎる『死』にみんな、絶望に染まってしまった。

『お母さんの死』と言う『現実』を、受け入れる事しか出来ない私達・・・・。

・・・・・・。