私の家はお寿司屋とは別の場所にある。
二階建てのちょっと古い家。

今年で五十才になるお父さんが、幼いときから暮らしている家が、私達美柳家の家。

その私の家に帰ると、私はいつもすぐに和室に向かう。
出先から帰ってくると、毎日ように仏壇に向かって手を合わせる私。

そして大好きな私の『家族』に挨拶。

「お母さん、武瑠。ただいま」

目の前の仏壇には、九歳にしてこの世を去った無邪気に笑う弟の武瑠の写真。
姉弟だけど正直あまり似ていない。

それともう一枚の写真が武瑠の隣にある。

少し私に似た、女性の写真。
名前は美柳茉尋(ミヤナギ マヒロ)。

私のお母さんの名前だ・・・・。

一人の私と遊んでくれた、優しいお母さん。
私を笑顔にしようと、いつも笑ってくれたお母さん。

そんなお母さんは六年前、この世を去った。
何の前触れもなくいきなり私達の前から消えた・・・・・。

それはお母さんと一緒に晩御飯を作っていた日のこと・・・・。

その日は私の十歳の誕生日で、お母さんはこの家で私のために、豪華な晩御飯を作ってくれた。
お母さんもお父さんには負けないくらい料理が上手だったっけ。

私もお母さんと一緒に、晩御飯作るのを手伝っていた。
時々幼い武瑠の面倒を見ながら、お母さんの指示に従っていた。

でも馴れない料理に私、凄く苦戦していたっけ・・・・・。

その日も今日と同じ月曜日で、お父さんのお寿司屋は定休日。
だから仕事が休みのお父さんは、私の『誕生日ケーキ』を買いに行ってくれた。

『空のためにデッカイケーキを買ってきてやる』ってお父さんの言葉、今でもよく覚えている。
おばあちゃんもお父さんと一緒にケーキを買いに出ていったっけ。

そしてお母さんの料理も完成して、後はお父さんの帰りを待つだけ。
『誕生日プレゼントは何をくれるんだろう』と一人で予想していたけど・・・・。

・・・・・・・。

私の『十歳の誕生日のパーティー』は開かれることはなかった。