「痛ってーな」

その北條さんの言葉同時に、私への攻撃が止まる。

そしてもう一人のヒーローが私達の前に現れる。

「何やってるのさ!なんで空ちゃんにそんな酷いことをするのさ!」

「お前には関係ないだろ!」

「関係ないとか関係ない!空ちゃんをいじめるやつは絶対に許さない!」

「何するんだテメー!」

私は自分の身が自由になっていることに気が付いた。
同時に突然聞こえてきた会話に、私は視線を移す。

するとそこには北條さんと、遊びに行ったはずの海ちゃんが激しく大喧嘩を始めていた。
二人の大きな声が道場内に響き渡る。

理解の出来ない二人の女の子の殴り合いに、私は混乱する・・・。

そしてその大喧嘩を止める男の子の姿。
いつも海ちゃんと一緒にいる大きな体の男の子の孝太くん。

「おい海!やめろ!」

孝太くんが必死になって止めようとしても、彼女達は手を止めることはない。
孝太くんの力によって一度は二人は離されるも、また二人は争う。

孝太くんが止めても、結果は同じ。

それどころか、二人の争いの勢いは増していく一方。
そして薄暗いホコリっぽい道場の中は、海ちゃんと北條さんの怒りの声が響くだけ。

そんな中、道場の入り口に女の子の姿が見えた。
北條さんの友達で、金髪を揺らす可愛らしい顔立ちの女の子は、目の前の光景にため息を吐く。

「なんでいつもこうなっちゃうんだろう。りんちゃんはただ居場所が欲しかっただけなのに。不器用なだけなのに」

そう言う小坂さんは、慌てて海ちゃんと北條の元に駆け寄る。
そして強引に北條さんだけを止めようとする。

「燐、帰るよ」

でも北條さんは相変わらず。
友達である小坂さんを突き飛ばす。

「花音どいて!そいつ、マジで許さない」

激しく北條さんに突き飛ばされた小坂さん。
でも小坂さんはまたすぐに立ち上がると、再び大きなため息と共に二人の元へ戻る。

そしてその後、乾いた音が道場の中に響いた。
いつも笑っている小坂さんは見たことない怖い顔で、北條さんの頬をひっぱたいた。

同時に小坂さんは声を張る。

「燐!ここで喧嘩しても意味なんてないでしょ?頭冷やして!」

小坂さんの言葉に北條さんの動きが止まった。
真っ青な表情で周囲を振り返る北條さん。

その北條さんの姿を見た海ちゃんも、『争う意味がない』と感じたのか手を止めた。
ちょっと驚いている海ちゃん。

そして北條さんは自分の鞄を持って、道場から逃げるように出ていた。

怒りが収まらないのか、最後に道場の扉を思いっきり蹴りながら・・・・。
喧嘩が終わっても、重い空気が不気味に流れていた。

みんな北條さんが出ていった道場の出入り口を、無言で見つめている。

でもそんな重い空気を振り払ってくれたのは、小坂さんだった。

小坂さんは持ち前の前向きで明るい性格を見せてくれる。