現れたのはやっぱり北條さんだった。
背の高い彼女は、ゆっくり私に歩み寄って目の前の私を睨んでいる。

スッゴく私に不満があるような表情・・・・。

そんな北條さんが怖い私だが、ここは勇気を振り絞る。

私は北條さんに問い掛ける。

「な、何か用・・・・ですか?」

北條さんは相変わらず私を睨んだまま。
蛇に今から飲み込まれるカエルの気分だ。

重たい空気がただただ不気味に流れる。

そんな中、北條さんは少し間を置いてから答えた。

ちょっと意外な言葉。

「空、なんでアンタあの時逃げたの?」

驚いたと言うのもあるが、私も少し間を置いてから言葉を返す。
「逃げたって、北條さんと小坂さんがやられていた時のこと?」

あの時。
その言葉の意味を念のために確認するけど・・・・。

それは愚問だと言うように、私は北條さんに髪を引っ張られる。

そして北條さんの逆鱗に触れてしまう。

「それ以外に何があるんだよ!」

「ご、ごめんなさい」

慌てて謝るも、もうすでに遅かった。
北條さんの私への怒りは収まらない。

「どうして?あたし達、『友達』だったのにどうして助けてくれなかったの?」

北條さんの『友達』と言う言葉に戸惑う私。

そして無言で下を向く私だから、またしても北條さんを怒らせてしまう。

「答えろよ!」

「痛っ!」

北條さんに頬をひっぱたかれた私。
力が強くて本当に痛いし、髪を引っ張られているから逃げれない。

でも『逃げても意味ない』と最近染み渡るように理解したから、私は本当の事を伝えたい。
もう全てを終わらせるように、素直に謝りたい。

『あの時の暴行されている女の子が、素直に北條さんと小坂さんだと分からなかった。だから気づかなくてごめんなさい』と伝えたい。

・・・・・・。

でもそれを言って北條さんは納得してくれるのだろうか。

また殴られるだけじゃないのだろうか。

痛いのはもう嫌だ・・・・。

一方の北條さんは私を怖い顔で見下ろす。

「やっぱりあたし達のこと、本当は脅えていたんでしょ?友達のあたしや花音のことを、本当は嫌っていたんでしょ?だからあたし達が暴行されて、『ざまあみろ』って思ったんでしょ?」

「ち、違う。そうじゃない」

「だったら言えよ!」

北條さんの顔は本気だ。
本当の事を言わないとまた殴るし、引っぱる私の髪も離さないと言うような本当に怖い顔。

そして、友達に裏切られた時の悲しい顔。

・・・・・・。

でもやっぱり言いたくないのが私の本音。
ここだけは嘘を付いてでも、逃げたいと思った。

自分の事だけを優先したいと思う私。

けど・・・・。

『北條さんも苦しんでいるのかな?』って、ふとそんなことを思ったら、私の口は簡単に開いてしまう。

素直で『友達を傷付けるだけの本音』を言ってしまう。