「まあいいや。どうせ誠也とは近い内に別れるし。最近会ってないし、なんか自然と距離が開いちゃうし・・・・・」

松井先生はそう独り言のように呟くと、カップに入れられたコーヒーを一口。

ブラックコーヒーと言うものだろうか?
真っ黒なコーヒーは苦そうだ。

でもカップの隣には、使用済みのスティックシュガーの袋が大量にある。
一応見なかったことにしておこう・・・・。

と言うか松井先生、本当はコーヒーなんて飲めないくせに。
カッコつけているだけのくせに。

そんな甘党の松井先生に、私は最大の疑問をぶつける。

と言うか再確認。

「誠也さんと松井先生は、本当に恋人同士なんですか?」

松井先生は大きく頷くと同時に答える。

「まあね。中学の同級生で高校までは一緒だったね。んで中学二年の時に付き合ったんだけど、高校を卒業したら誠也は調理師学校に通って、私は体育教師の資格のために大学行ったし。あたしも誠也も久しぶりに地元に帰ってきたのに、お互い仕事で殆ど会えないし。おまけに自分の教え子に彼氏を奪われるし。本当サイアク」

松井先生の言葉に、急に胸が痛くなったから私は素直に謝る・・。

「それは、ごめんなさい・・・・」

「まあ別に良いよ。空ちゃんを怨んでいる訳じゃないし。二人の方がお似合いだと思うし」

松井先生は私を睨み付けると続ける・・・・。

「だから空ちゃんを怨んでもいい?」

「松井先生、言っていることが滅茶苦茶ですよ?」

「うっさいな!空ちゃんは黙って勉強して友達と遊んでいればいいんだよ!」

友達。
その言葉が私の中で気になったが、松井先生は付け足して『友達』の意味を説明してくれる。

「川下海ちゃん。空ちゃんがズル休みや法事で休んでいる間、あの子はずっと空ちゃんの事を心配していたよ。何度も私に空ちゃんの事を聞いてくるし、『空ちゃんと友達になろう』と頑張っていたし」

「海ちゃんが、ですか?」

「そう。不器用だけど真っ直ぐで明るい川下海ちゃん。空ちゃんと海ちゃん、なんかいいコンビに見えるし」

確かに海ちゃんだけには、もう心を許している私。

と言うか私が学校を休んでいる間もずっと心配してくれたんだ。
何だかもう友達みたい。

・・・・・・・。

いや、もう友達だよね。

私、海ちゃんの事をもっと信用しないと。