「美柳、噂じゃ弟が亡くなったらしいよ」

「まじ?弟とか結構ダメージデカくない?」

「まあでも感情ない美柳だからなー。弟が死んでも何にも思わないんじゃね?」

「それは言える。アイツ自身、生きているかどうかわかんねぇ奴だし」

「ちょ、アンタら酷すぎるって!あはは!」

「それを笑うお前は一番酷い」

嫌でも耳に入るノイズを聞いて、私は『やっぱり』と小さく息を吐く。

ここにいる限りは、ノイズが聞こえるのは仕方ない。
でもなんで『今日の私は無事なんだろう』と、私は少し考えていた。
いつもなら毎日のように机や椅子は窓から投げられているのに。

弟が亡くなったことに同情してくれたから?
最近学校を休んでいたから、『美柳は今日も休み』だと勘違いしたから?

学校を休む相手をいじめても意味ないと判断したから?。

ちなみに北條さんと小坂さんはすでに登校している。

私に気が付いていないのか、『今日はいじめるのがめんどくさい』のか分からないけど、北條さんの席で二人で一つの携帯電話の画面を見ていた。
たぶん何かの動画でも見ているのだろう。

海ちゃんは仲の良い男の子の元へ行っていた 。
彼氏にも見える大きな体の男の子。

名前は知らない。

一方で私は自分の席に一人座ったまま。
あと五分で始まるホームルームまでの時間を、ただ待って過ごした。

時々携帯電話に送ってくる誠也さんのメッセージを返しながら。

ちなみにノイズは聞こえたまま・・・・。
学校の歴史を感じる、鐘の音のような学校のチャイムが鳴り響いたら、クラスメイトは自分の席に戻っていく。

どうやら一日の始まりらしい。

やがて担任の先生も教室にやって来た。
私達二年二組のクラスを持つ体育科の松井裕香(マツイ ユウカ)先生。

確か誠也さんと同い年の二十五歳だっけ。
生徒達の気持ちを理解してくれる若い女性の先生だ。

それとちょっと変わった先生でもある。

松井先生は今日の連絡事項を伝える。
『裏庭の道場は取り壊し予定で、一部工事をしているから入らないように』とか、『体育館のボールは使ったらちゃんと後片付けをしましょう』とか。

何故だか少し怒り口調で松井先生は言っている。

なんで怒っているのか、誰にも理解できないだろう。

私もわからないし・・・・。
そして全ての注意事項を伝え終わったら、松井先生は教室から出ていった。
ホームルームの時間をたっぷり残して教室を後にするのが、松井先生のやり方。

でも今日はいつもと違うみたい。
一度出た教室にまた戻って来た松井先生は、何故だか私の名前を呼ぶ。

「美柳空ちゃん、ちょっとおいで」

松井先生からの指名に驚く私は無言で立ち上がる。
なんで呼ばれたのか、突然過ぎて全くわからない。

そして私に集まるクラスメイト視線を気にしながら、私は松井先生の元へ向かった。

さっきの怒ったような松井先生はどこかに行って、誠也さんのような優しい笑みを浮かべる松井先生。

その笑顔を見ていたから、私が呼び出された理由も少しだけなら分かる気がする。

・・・・・・。

そう言えばお父さんに学校での私の現状を伝えてくれたのは松井先生だっけ。

松井先生、私の味方なのかな?