「お、おはよ」

そんな海ちゃんにいつもの暗い声で答える私。
不思議と誠也さんや家族の前で出る笑顔や明るい声は、学校では出ない。

一方で私の暗い声を聞いた海ちゃんは笑った。
同じクラスなのに、こんな私にも優しく接してくれる。

「体調悪いって聞いたけど大丈夫なの?」

体調悪い。
誠也さんと遊んだ日に学校に言ったズル休みの言い訳だ。

海ちゃん相手だけど、ここは嘘を付かないと。

「あーうん。もう平気。お葬式や土日の休みがあったから治っちゃった」

海ちゃん相手でも、やっぱり学校の中じゃ上手く笑えない。
苦笑い一つ、浮かべることが出来ないから、無愛想な表情で答える私。

そしてそんな私を客観的に見て、本当にロボットのように感情のない奴だと、改めて感じた。
学校の中で私に声を掛けてくれる海ちゃんは、私の味方の一人だと言うのに・・・・。

そんな海ちゃんは、私の暗い顔を見て気を使ってくれる。

「怪我は大丈夫?この前の公園の」

この前の公園。
それは海ちゃんと初めて話した日のことだ。

不良に絡まれ、お父さんが助けてれた日のこと。

「うん。私は対してなにもされなかったし。そう言う海ちゃん、は大丈夫なの?」

海ちゃんは私には出来ない苦笑いを浮かべて答えてくれる。

「私も大丈夫!って、まだちょっとアザがあるんだけどね。でも制服で見えないし、大丈夫かなって」

「そうなんだ。よかった・・・・」

こうして二人で話していたら、いつの間にか教室にたどり着いた。

『今日は一体どんな悪さをされているだ?』と、不安な気持ちに押し潰されそうになりながら私は教室の中へ入っていく・・・・・。

目の前の光景はいつも少し違った。
私の机や椅子は窓側の定位置にあるし、机の上や黒板に悪口なんてない。

いつも置いて帰っている教科書やノートも無事だ。
目に見える限りじゃ、何にも酷いことはされていない。

特に異常はない。

・・・・・。

でもクラスメイトのノイズはやっぱり聞こえる。
いつもと違う気がするけど、私にとっては目障りな声には変わらない。