明日も世界は回るから。・・・・ホントかな?

「空ちゃんは優しいお姉ちゃんだからね。武瑠くんも幸せだったと思うよ。武瑠くんもこの前、『空姉ちゃんの事が好き』って言ってたし」

誠也さんは私の背中を撫でると続ける。

「だから空ちゃん、顔を上げて。悲しくて泣いている顔は、俺もみたくないし武瑠くんも見たくないはず。お姉ちゃんの苦しむ姿なんて武瑠くんは見たくないからね。一度でいいからまた笑ってみてよ」

溢れる涙を拭いながら、私は誠也さんの言葉に小さく頷いた。

でもまだ笑顔は出てこない私。
さっきまでずっと笑っていたのに。

・・・・・。

ってか私、どうやって笑ったらいいんだっけ?

誠也さん。私、どうやって笑っていたの?

・・・・・・・。

確かに武瑠、私の悲しい顔が大嫌いだった。
いつも私が泣きそうになったら、昔からいつも側に居てくれた。

武瑠は情けないお姉ちゃんを励まそうとしてくれたし、『姉ちゃんは俺が守る』って、何度も武瑠は言ってくれた。

でもその武瑠が居なくなって、『笑え』って言われても笑えるわけないじゃん。

だってもう会えないんだよ。
大好きな武瑠ともう会えないんだよ。

できるわけないじゃん!
大好きな武瑠が亡くなって、笑えるわけないじゃん!

そんなの私には無理だよ。
出来ないよ・・・・・。

そう思ったら、また涙が溢れ出した。
泣いてばっかじゃダメって自分でも思うけど、そんなの無理。

だって悲しいものは悲しいもん。
それに私には笑う力はないんだし。

そんな力はないんだし・・・・。

笑うことなんて、難しいし。

と言うか、もう笑えない・・・・・・。

私達のいる人の少ない病院のロビーに足音が響いた。

振り返ると、そこにはお父さんとおばあちゃんの姿。
私と違って、二人の表情は晴れている。

そしてお父さんは、私達に自分の存在を知らせる。

「おう。空に誠也。今日は帰るぞ。明日から通夜とかで忙しくなるだろうしよ」

誠也さんは言葉を返す。

でも・・・・。

「あっ、うっす。って・・・・」

未だに誠也さんの胸で泣き続ける私を見て、誠也さんは苦笑い。
私に何を言っても、慰めても、結果が変わらずに苦笑いを浮かべる誠也さん。

そしてそれはお父さんも同じ。
お父さんは苦笑いを浮かべながら、私の頭を優しく撫でる。

「ったく、まだ泣いているのか?このお姉ちゃんは。仕方ないな」

そう言ったお父さんは、小さな息を吐くと言葉を続ける。

私に改めて辛い現実を突き付けてくる。

「空、残念だが武瑠は死んだ。だからもう会うことはない。二度とないだろう」

「ちょ、将大さん」

お父さんの言葉に、誠也さんは驚く。
『ちょっと言い過ぎじゃないか?』って疑うような誠也さんの表情。

だけど、お父さんは誠也さんの表情を気にせずに、また言葉を続けた。

私に、『大事な話』を持ちかけてくる。

「だからこそ、空お姉ちゃんにお父さんから一つお願いがあるだ。空お姉ちゃんにしか頼めないお願い」

「・・・・お願い?」

私は顔を上げて問い掛けたら、お父さんは笑っていた。

そして笑顔のまま、私にしか頼めない『お願い』を語ってくれる。

「弟の武瑠の分まで、お姉ちゃんである空には笑って欲しい。美柳家の笑顔を空が作って欲しい」

私が『美柳家の笑顔』を作る・・・・・・。

「なーに、簡単だ。難しく考えるな。ただお前が笑えばいいだけの話だ。そうすればみんな笑顔になれる。天国の武瑠も笑ってくれる。『笑顔は伝染する』って言うからな」

今の私がやらなくちゃいけないこと。

それは笑顔を見せること。
数時間前まで見せていた笑顔を、ここでも見せること。

それを誠也さんもお父さんも同じこと言っているんだ。
笑えって言っているんだ。

『辛い時こそ笑え』って、二人は染み込むように教えてくれる。
みんな私の笑顔を見たがっている。

でも・・・・。

・・・・・。

やっぱり、私はもう笑えない。

「そんなの、私には出来きないよ・・・・」

そう言ったりしたら、『いい加減怒られる』かと思ったりもした。
二人の言葉を、私のワガママで蹴飛ばす。

そしてそんな私にカミナリが落ちるのかと、一瞬そんなことを思ったけど・・・・・。

お父さんはずっと笑っている。
まるで、私に『こうやって笑うのだよ』って教えてくれてるみたいに。

「ははは!まっ、空にはまだ難しいか。確かに武瑠が亡くなってすっごく悲しいもんな。お前の気持ちはすっごく分かるし、家族を失う気持ちを俺も理解しているから空の気持ちはすごく分かる。だから、無理なら無理でもいい。笑えなかったら笑わなくてもいい。お前には俺らが付いているから、たくさん泣いて、辛い気持ちが消えてから笑ってくれたらいい。無理して笑うと、人間逆に辛いからな。俺も経験あるし」

無理に笑うな。
今の気持ちを整理してから笑え。

そう理解した私は涙をふき取ると、小さく頷いた。

そして少し考える。

今私を励ましてくれるみんなの気持ちについて、少し考えてみる・・・・。

・・・・・・・。

武瑠が亡くなって、私は辛い。
涙が止まらない。

でもそれは『みんなも同じなんじゃないかな?』って少し思ったりもした。

お父さんにとっては大切な息子。
おばあちゃんにとっては大切な孫。

誠也さんにとって武瑠は、大切な友達のような存在。
誠也さんと武瑠はすっごく仲が良かったし、よく遊んでいたし。

だからそう思ったら、『私だけが泣いているのは少し違うかな?』って思ったりもした。

確かに辛いし、涙も自然と出てしまうけど、みんなも武瑠の死に悲しんでいるんだ。
本当はみんな、私同様に泣きたいはずなのに、『私だけが泣くのは違うかな』って。

というか、武瑠は私に『笑え』って言っているんだ。
私と約束したんだ。

『ずっとお姉ちゃんは笑っていて欲しい」って。

・・・・・・・・・・。

そう考えたら、もう泣いていられないよね。
って、さっき誠也さんが言っていたのに、どうして私は理解しようとしなかったのだろう。

誠也さんは『武瑠はお姉ちゃんの泣き顔なんて見たくない』って言って励ましてくれたのに。

お父さんも『私が笑ったら、武瑠も笑ってくれる』って言ってくれたのに。

・・・・・・。

相変わらずバカだな私は。
どうも人の気持ちを理解する事が出来ない。

武瑠はよく私の気持ちを考えてくれたのに。

お姉ちゃん失格だ。
そんなんじゃ天国の武瑠に笑われる。

・・・・・・・・・・。

だったら早く武瑠に認めてもらわないと。

もう泣き虫な自分は嫌だ。

ってか、武瑠に怒られるよ。
夢に出てきて、また怒られるよ。

それだけはなんとしても避けないと。

何より私、『しっかりしたお姉ちゃんになる』って武瑠が生まれた時に誓ったんだし。
武瑠も赤ちゃんの時にその私の言葉を聞いているはずだし。

だから、私がしっかりしないと。
本当に武瑠に笑われる。

そしてもっと自信を持たないと。
前に進まないと。

こんな私は、私も嫌だ。


私は自分の涙を拭った。
正直言ってまだ笑顔は見せれないけど、少しは気持ち的に前には進めたともう。

だから私はもう一度確認する。
現実を確認する。

「武瑠は、もういないんですよね」

誠也さんは笑顔で答える。

「武瑠くんはずっと空ちゃんのことを見守ってくれるよ。ずっと空ちゃんを見守ってくれているよ。上手く言えないけど、そんな気がする」

誠也さんは今、私を励まそうとしてくれる。

そう理解したら、何だかその言葉が面白く感じた。
何故だか不思議と元気が出てくる。

私も誰かさんと同じで性格が悪い。

「そんな気がするって、ちょっといい加減ですね」

私の言葉に、誠也さんは笑う。

「あはは。俺、どうも人を励ますのは苦手でね。いっつも真奈美に『お兄ちゃんはもっと上手に慰めて』って、落ち込む真奈美に怒られた事があるくらいだし」

誠也さんの言葉を聞いた私は、いつの間にか悲しさか半減になって顔を上げる。

そして、ようやく小さく笑う。

「落ち込む真奈美さんに怒られるって、なんか変ですね」

「だろ?『わざと落ち込んで俺を試しているんじゃないか?』って、不思議に思わされるしよ。アイツもアイツで性格の悪い奴だし。ってか俺の回りは性格の悪い奴ばっかだからよ。真奈美に裕香に千尋。あと将大さんに空ちゃんも」

誠也さんの言う様々な名前の中、私の名前が上がっていることに気が付いた。

もちろん私は反論する。

「わ、私はそんなに悪くないですよ!」

「そうかな?俺と関わった人間みんな性格が悪くなっていくからな。あと一年くらい経てば、空ちゃんも立派な性悪の女王様だ。あー、怖い怖い」

「ちょっと意味がわからないです」

誠也さんがまた『私をからかっている』と言うことは理解した。

そう言えば、まだこの『性悪大魔王』をボコボコしてなかったっけ。
私との約束、まだ残っているし。

何にしようかな?
やっぱり後で私の気が済むまでフルボッコに殴ってやろうか。

・・・・・。

うん、それがいい。
私に逆らえないように、ボコボコにしてやるんだから。

そうやって誠也さんと話していたら、不思議と元気が出た。
そう言えば、今日は何度も不安な所を誠也さんに助けられたっけ。

誠也さんといると、不思議と『私も頑張らなきゃ』って思わされる。
性格が悪い誠也さんにバカにされるから、私も『やってやる!』って気持ちになる。

改めて思うと、本当に誠也さんは『変な人』だと私は少しだけ思った。

そしてそんな誠也さんに、後で『ありがとう』って伝えよう。
今日私が笑えたのは、間違いなく誠也さんのおかげ。

ずっと私の側にいてくれたおかげで、私は笑えた。
人生を楽しめた。

こんな楽しい一日、改めて思うと『最高』だった。
色褪せることのない最高の思い出。

いつの間にか、今日の記憶を取り戻していく私。

楽しい思い出が胸にいっぱい。

一生、忘れることはないだろう。

私は誠也さんと一緒に立ち上がった。

帰ろうと言うお父さんと、隣にいるおばあちゃんと一緒に帰ろうとしたが、お父さんに大切なものを渡される。

「おっそうだ空。忘れ物だ。ほら」

忘れ物とは私の携帯電話のこと。
昨日武瑠の病室に置き忘れたのだった。

すっかり忘れていた。
まあ誰とも連絡を取っていないから、別になくてもいいんだけど・・・・・。

「うん。ありがとう・・・・ああ!」

その携帯電話をお父さんから受け取ろうとしたが、手が滑った。
情けない私の声の後、私の携帯電話が地面に落ちる音が病院のロビーに響く。

大切な携帯電話を落としてしまう。
運良く画面は割れてない。

・・・・・・・。

でも、代わりに画面が明るくなった。

同時に、今の時刻を知らせる表示と、『武瑠の笑顔』が甦る・・。

昨日までの私の携帯電話の待受画面は、初期設定のままの『青い海と青い空の画像』だった。
待受画面の変更の仕方なんて、機械音痴の私にはわからない。

でも今は違う。

私の携帯電話の待受画面は、いつの間にか武瑠と私の自撮り写真に変わっていた。
昨日私と武瑠で一緒に撮った、笑顔の武瑠と武瑠と一緒に笑う私の写真。

・・・・・・。

ってか、どうして?

どうしてこの写真が待ち受けに?

・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

そっか、武瑠の仕業だ。
武瑠が残してくれたんだ。

『自分は死ぬ』ってわかっているから、『私との思い出』を武瑠なりに残してくれたんだ。

私が悲しまないように。

『オレはいつでも姉ちゃんの味方だ』ってその待ち受け画面が教えてくれるように。

・・・・・・・・。

ホント、すごい男の子だよ武瑠は。
まだ九歳なのに、ずっと私のことを考えてくれる。

こんなダメなお姉ちゃんを、見捨てずに助けてくれる。

ホント、大好き・・・・。

そんな私の携帯電話の待受画面を見て、お父さんは笑みを溢して小さく呟く。

「よく撮れているじゃねえか」

一方の誠也さんは何度も私の肩を叩いてくれる。
すごく嬉しそうにな誠也さんの表情。

「ほらね、武瑠くんは空ちゃんを見守ってれているでしょ?」

携帯電話の電源を付けると、武瑠が微笑んで見守ってくれるから、自分の先程の言葉が証明されたかのように嬉しそうな誠也さん。

私も誠也さんの言葉が本当になったから、すごく嬉しい。

『いつでも武瑠が側に居てくれる』と思ったら凄く嬉しい。

また武瑠が励ましてくれるから、私も頑張れる。

そして『頑張ろう』って思うから、私から自然と笑顔が生まれる。

武瑠が私の明日を作ってくれる。

「ありがと、武瑠。お姉ちゃん、頑張る」

もう一人じゃない。

今日何度もその言葉を教えてもらった私は、『明日も今日みたいに頑張ろう』と心に決めた。
一人じゃ出来ない事でも、『誰かと一緒なら出来る事もある』って今日一日学んだから。

誠也さんと一緒ならできること。

お父さんと一緒ならできること。

おばあちゃんと一緒ならできること。

そして、武瑠が側にいてくれるから出来ること・・・・。

何より私には、たくさんの『味方』がいる。
みんな涙を見せる私を励ましてくれる。

・・・・・・・。

そう考えたら私、『もう一人で悩む必要なんてない』と思った。

誰が側に居てくれて、私は支えられる。

そして誰かがいるから、私も頑張れる。

明日からまた辛い一日が始まるかもしれないけど、もっと私も前を向いて生きていかないと。

じゃないと自分を変えられない。
今の自分が嫌いなら自分を変えていかないと。

だから・・・・。

負けるな、私。
絶対に負けるな美柳空。

最後は絶対に笑ってやるって、私は決めたのだから。

私を支えてくれたみんなと一緒にね・・・・・。
武瑠もこれからも私を見守っていてほしいな。

お姉ちゃん、絶対に頑張るからさ。

武瑠と一緒に、また笑いたい・・・・・。
ふと武瑠と過ごした出来事を思い出した。

それは武瑠が『ガン』だと宣告された日。

当時中学一年生だった私、美柳空(ミヤナギ ソラ)と、幼稚園児だった私の弟の美柳武瑠(ミヤナギ タケル)。
そしてお父さんとおばあちゃんと一緒に、京都に出掛けた夏の日のこと。

その日はとても暑く、朝から晩までずっと『暑い』と言っていた記憶がある。
京都の歴史ある観光地にも行ったけど、アスファルトから伝わる熱気にやられて、『どこ』に『何をしに行った』か正直覚えていない・・・・。

でも『お昼ご飯の出来事』は覚えている。
何を食べたかまでは覚えてないけど、料亭のような場所でお昼ご飯を食べたことは覚えている。

その記憶だけは心の中に記憶しているから、食べた料理の記憶以外は消えることはない。

お父さんやおばあちゃんは、お昼からお酒を飲んでゆっくり楽しんでいた。
私と武瑠も料理を食べながら、お父さん達と会話していた。

私の将来の話をしていたっけ。
当時の私、音楽を作る作曲家のような『クリエーター』になりたかったんだっけ。

なろうと思った理由はあまり思い出したくない。

でも当時の私の気分は、お父さんとおばあちゃんと一緒に話すより、『どこか遊びに行きたかった』のが本音だ。
京都まで遊びに来て、将来の話なんてなんか嫌だし。

だから私はお昼ご飯を食べ終えたらすぐに、近くのゲームセンターで遊んでいた。
少し酔ったお父さんにお小遣いも貰った。

まあ、京都まで来てゲームセンターもちょっとどうかと思うけど・・・。

そして武瑠も連れて、私はクレーンゲームで遊んでいた。
可愛いぬいぐるみが欲しくて、ずっと二人でクレーンゲームで遊んでいたっけ。

武瑠も初めてのゲームセンターに笑顔が止まらない。

でもしばらく遊んでいたら、いつの間にか武瑠は倒れていた。
私と一緒に遊んでいたはずなのに、武瑠の意識が無くなっていた。

武瑠、すごく苦しそうだった・・・・・。

だから私、慌ててお父さんとおばあちゃんを呼びに行った。
急いでお父さん達がいるお店に戻り、楽しくお酒を飲むテーブルで泣きながら事情を説明する。

『武瑠が危ない』って、ただそれだけを言って泣き叫ぶ。

そしてみんなで武瑠の元へ急いで向かった。

すぐに救急車で近くの病院に運ばれる武瑠・・・・・・。

・・・・・・・。

最初は武瑠、熱中症かと思った。
体温が上がりやすい体質なのか、夏なるとよく倒れたりしていたし。

病院に行っても何度も熱中症だって診断されていたからこそ、今回も熱中症だと思っていたんだけど・・・・。

運ばれた病院で、まだ五歳の武瑠は『ガン』と宣告された。
その言葉に家族みんなは、言葉を失う。

ガンの進行はかなり進んでいるみたいで、『武瑠はあまり長く生きれない』と先生は教えてくれた。

その時の私、本当にショックでおばあちゃんの胸でずっと泣いていたっけ。
『大好きな弟がとんでもない病気と闘っていたこと』に・・・・本当に最悪な気分だった。

本当に最悪な気分・・・・。


そこから武瑠の病院生活が始まった。
殆ど武瑠は病院で過ごし、武瑠が楽しみしていた小学校の入学式も結局参加できず。

小学校低学年の時は体調はあまり良くならない。

でも武瑠、体調がいい日は学校に通ったりした。

『私のクラスメイト』と違って『武瑠のクラスメイト』は皆優しく、授業に遅れている武瑠に勉強を教えてくれた。

武瑠もそれに答えるように、『生きるため』に足し算や漢字の勉強などを必死に覚えていた。

それらは全て、『生きるため』に。

自分の『未来』のために・・・・・・。

こうして武瑠は病院と学校を行き来する日が続いた。
一時は治りそうな勢いで、病院に行かずにずっと学校に通っていた時もあった。

その時の武瑠、本当に人生を楽しんでいたっけ。
でも今年に入ってから、病状がかなり悪化してしまった。
薬やガン治療を色々と試しているけど、武瑠のガンの進行は止められず。

そして武瑠が小学三年生になった頃には、一度も学校に通えなくなってしまった。
ずっと入院生活で、武瑠は病室の天井を眺める退屈な日々が続く。

大好きな学校にも通ない日々・・・・。

でも武瑠は私と違ってクラスの人気者。
学校に通えなくても、クラスメイトが定期的にお見舞いに来てくれた。

だから武瑠、ずっと笑顔だったっけ。

その時は余命半年と宣告されたけど、楽しそうにずっと笑っていたっけ・・・・・・。

・・・・・・。

そんなクラスメイトの人気者の武瑠が昨日、ガンのためこの世を去った。

武瑠のお葬式には武瑠のクラスメイトなど沢山の人が来てくれたけど、あまりにも突然の別れに殆どの人が現状を理解するのに苦しんでいた。

武瑠の笑顔の遺影見て、武瑠のクラスメイトみんなは泣いていた。

そしてお通夜にお葬式に火葬など、武瑠のために沢山の人が集まってくれたこの二日間。
沢山の人が見せてくれた涙の中、武瑠は沢山の人達に見送られた。

『武瑠、どこまでも本当に幸せそう』だと私は思った。
本当に、『武瑠は私と違って愛されていたんだ』って、改めて知ったお葬式だった。

ホント、嫌われ者の私とは大違い・・・・・・。
一方の私は誠也さんと約束して、お葬式の間は一切泣かなかった。

『武瑠くんは空お姉ちゃんの泣き顔は見たくない。泣き顔は俺にだけ見せてればいい』
と言う半分意味のわからない誠也さんとの約束で、どんな時も私は泣かなかった。

お葬式に来てくれた人には、笑顔を見せるように意識していた。
逆に凄い気を使われている気もしたけど、私は笑顔を貫き通した。

でも、『泣きたくなるほど辛い』のが私の本音。
気を抜けば、『また涙が溢れそう』なのが私の心の本音。

だから本音だけは、誠也さんの前で話した。
お葬式が終わったら私、誠也さんの胸で泣いていたっけ。

誠也さんの約束通り、誠也さんの前だけでずっと涙を溢していた。

やっぱり辛すぎる・・・・。

大好きな人がいなくなったら、本当に辛い・・・・。

・・・・・・・。

でも人生切り替えは大事。

お父さんは『お葬式後はやることはまだまだある』と言っていたけど、それらを終えた頃にはお父さんや誠也さんは仕事に復帰。

休業していたお寿司屋さんも、営業を開始させた。
お店を休んでいたからか、土曜日と日曜日この二日間は凄く忙しかったっけ。

お店もすぐに満席になったし。

私も武瑠のお葬式で疲れているお父さん達を助けたいと思い、生まれて初めてお店を手伝った。

お父さんや誠也さんが作った料理を運んで、『お客さんを笑顔にさせよう』と頑張ってみた。
洗い物やドリンクを作ったりもした。

でもあまりにも忙しすぎて、自分が何をしているのかわからなかった・・・・。

だから気が付いたらお客さん出す料理の名前を間違ったり、料理を出す席を間違ったりして踏んだり蹴ったり。

本当にお客さんに迷惑を掛けてばっかり・・・・・。

でもお父さんや誠也さんのフォローのお陰で、迷惑をかけてしまったお客さんも笑ってくれた。
『ウチの娘、間違って当たり前なんで、間違えたら全力で笑ってやってください』って、事前にお客さんに説明してくれていたっけ。

おかげで私、ずっとお客さんに笑われていたっけ。
『次はどんなことをしてやらかしてくれるの?』って、お客さん達から誠也さんみたいにからかわれたっけ。

なんかスッゴク悔しい・・・・。
こうして美柳武瑠と言う大切なパーツを失っても、美柳家は明るく生き続けた。

お父さんやおばあちゃんも私に今まで以上に話してくれるし、私の話もしっかり聞いてくれる。

なんだか一段と『家族の輪』が大きくなった気がする。

私も少しは変われたはず。

・・・・・・。