私達のいる人の少ない病院のロビーに足音が響いた。

振り返ると、そこにはお父さんとおばあちゃんの姿。
私と違って、二人の表情は晴れている。

そしてお父さんは、私達に自分の存在を知らせる。

「おう。空に誠也。今日は帰るぞ。明日から通夜とかで忙しくなるだろうしよ」

誠也さんは言葉を返す。

でも・・・・。

「あっ、うっす。って・・・・」

未だに誠也さんの胸で泣き続ける私を見て、誠也さんは苦笑い。
私に何を言っても、慰めても、結果が変わらずに苦笑いを浮かべる誠也さん。

そしてそれはお父さんも同じ。
お父さんは苦笑いを浮かべながら、私の頭を優しく撫でる。

「ったく、まだ泣いているのか?このお姉ちゃんは。仕方ないな」

そう言ったお父さんは、小さな息を吐くと言葉を続ける。

私に改めて辛い現実を突き付けてくる。

「空、残念だが武瑠は死んだ。だからもう会うことはない。二度とないだろう」

「ちょ、将大さん」

お父さんの言葉に、誠也さんは驚く。
『ちょっと言い過ぎじゃないか?』って疑うような誠也さんの表情。

だけど、お父さんは誠也さんの表情を気にせずに、また言葉を続けた。

私に、『大事な話』を持ちかけてくる。

「だからこそ、空お姉ちゃんにお父さんから一つお願いがあるだ。空お姉ちゃんにしか頼めないお願い」

「・・・・お願い?」

私は顔を上げて問い掛けたら、お父さんは笑っていた。

そして笑顔のまま、私にしか頼めない『お願い』を語ってくれる。

「弟の武瑠の分まで、お姉ちゃんである空には笑って欲しい。美柳家の笑顔を空が作って欲しい」

私が『美柳家の笑顔』を作る・・・・・・。

「なーに、簡単だ。難しく考えるな。ただお前が笑えばいいだけの話だ。そうすればみんな笑顔になれる。天国の武瑠も笑ってくれる。『笑顔は伝染する』って言うからな」

今の私がやらなくちゃいけないこと。

それは笑顔を見せること。
数時間前まで見せていた笑顔を、ここでも見せること。

それを誠也さんもお父さんも同じこと言っているんだ。
笑えって言っているんだ。

『辛い時こそ笑え』って、二人は染み込むように教えてくれる。
みんな私の笑顔を見たがっている。

でも・・・・。

・・・・・。

やっぱり、私はもう笑えない。