まるでバカンスのような、愉快なカモメの鳴き声が聞こえた。
豪華客船で船旅をしている気分だ。

気温も不思議と真夏日のように少しだけ熱い。
本当にバカンスに来た気分。

そんな不思議な空間に落ち着いていた私だが、急にこの辺りは不気味な雰囲気に包まれた。
突然青い空は黒い雲に覆われて、大海原も大きな波と共に荒れ始めた。

私と誠也さんが乗る船は少し揺れ始め、カモメ達の鳴き声も消えていく。

そして私達の目の前にいきなり巨大なサメが現れた。
全長四メートルくらいの、あり得ないデカさの人食いサメ。

巨大な口を開けて、ゆっくりと私達の小さな船を飲み込もうとしている。
たたの演出なんだけど、それは凄く『恐ろしいもの』だと私は感じていた。

ちなみにサメの口の中には、銃撃ポイントと思われる的のようなものがあった。
その的を銃で打ち、命中すればゲージに数字が貯まる。

そしてその数字が多い方が勝利となるわけだ。
どれだけサメにダメージを与えたることが出来るのか競う、ゲーム式アトラクション。

早速誠也さんはそのサメの的に銃口を向けて、何度も撃っている。
一度来たことがあるのか、目の前の巨大なサメにびくともせずに、かなり迎撃ポイントを稼いでいる。

どうやら誠也さん、かなりの実力者みたい。
何だか本物のスナイパーみたい。

・・・・・・。

一方の私は目の前のサメに怯えていた。
目の前の銃を握らずに、いつの間にか頭を抱える私。

と言うか目の前の巨大なサメ、リアル過ぎて怖い。
頭の中では偽物のだと分かっているけど、実際に目の前にすると本物にしか見えない巨大なサメ。

だから目の前で本物の人食いサメが襲ってきているみたいだから、私はいつの間にか情けない悲鳴を上げる・・・・。

「ひっひぃ!」

この状況で銃を握る?
そんなの私には絶対に無理!

本当に怖すぎてサメを直視出来ないよ。
私の何倍もある巨大なサメだから、さらに怖い・・・・。

そんな私を誠也さんは横目で見てバカにする。

「どうしたの空ちゃん?さっきの威勢はどこいったの?やっぱり大人しく俺の言うことだけ聞いておく?ジェットコースターで泣いてみる?」

「それだけは嫌です!」

「だったら銃を握らないと。楽しくないよ?」

確かに誠也さんの言う通り。
私はサメに怯えに来たわけじゃない。

隣の変態を自分のものにするために来たんだ。

そして今日の恨みを全て返してやると誓ったんだ。
今日されたことを全部。

・・・・・。

だったら銃を握らないと。
もっと頑張らないと。

現状が嫌なら足掻かないと。
一生嫌な気分のまま。

・・・・・・。

でもやっぱり怖い。
リアル過ぎて、本当に食べられそうな感覚に陥ってしまう。

本当に嫌なものには何もかも目を逸らしてしまう私。

・・・・・。

そういえば最近はいつもそうだ。
『自分の敵』だと思うものは、怖くて直視出来ない。

だから敵が現れたら私、すぐに自分の殻の中に隠れてしまう。
現実に向き合うことすら出来ない。

戦おうとすらしない。

・・・・・。