「一時間だったら短い方だな。本来なら二時間待ちが普通なんだよ」

何をそんなに偉そうに語っているのか理解できない私は、未だに私の手をしっかり握る誠也さん振りほどこうとする。

でも本当にしっかり握っているのか、全然歯が立たない。
このままじゃ本当に大嫌いなジェットコースターに乗らさせる・・・・。

「誠也さん!私、乗りたくないんです!」

「でも俺はジェットコースターに乗って泣き出す空ちゃんの顔が見たい」

「意味わからないです!」

もう誠也さんの行動は全て『私を苦しませるだけの行為』にしか見えないし、その誠也さんの姿は完全に『悪魔』そのもの。

頭のおかしな誠也さんの行動に、もううんざりだ。
私の言葉を受け入れようとしてくれないし、私の泣き顔が見たいとか意味わかんないし。

頭おかしいし。

・・・・・・。

それとも、私との距離を縮めようと誠也さんも努力しているのかな?

いつも殻に閉じ籠る私だから、表に出そうとしてくれるのかな?

無理矢理私をからかって、私の閉ざした心の扉をこじ開けようとしているのかな?

誠也さんらしく、私を元気付けようとしてくれているのかな?

・・・・・・・・。

でもやっぱり誰か助けてほしい。

目の前の悪魔のような男を懲らしめてほしい。

やがて誠也さんはジェットコースターを待つ長蛇の列を見つけた。
まるで巨大な蛇のように、ジェットコースターを待つ人はかなり多い。

そんな列に意地でも並びたくない私は、最後の手段を思い付いた。
誠也さんに効くかは分からないけど、試してみる価値はあると思う。

と言うかやるしかない。
逃げたいなら、行動するしかない。

誠也さんの手に向かって、思いきって噛みつく私。

「痛って!」

案の定誠也さんは驚いて足を止めた。
同時に一瞬だけど私の手を握る力が弱くなる。

そして私はその僅な隙を逃さない。

「あっこら空ちゃん!」

全力で誠也さんが握る手を振りほどくと、私は誠也さんと反対方向に逃げる。

どうせ追い付かれると思うが、これが私の抵抗だ。
『意地でもジェットコースターに乗りたくない』と言う私の気持ちが、改めて誠也さんに伝わればよかったんだけど・・・・・・・。

本当に誠也さんは意地悪な人間・・・・いや、『人の形をした悪魔』だと、私は改めて思わされる・・・・・。