誠也さんは少し間を置くと、お寿司屋さんになった本当の理由を語る。

「さっきも言ったけど、昔から釣りが好きで魚も好きでさ。家に魚を持って帰ると、母さんが寿司にしてくれたんだ。だから、『大好きな寿司を作る仕事がしたいな』って思ってさ」

「そ、そうなんですね」

仲の良い家族だと思い、私は真奈美さんに用意してもらったお水を一口。
なんだか不思議とお水が染み渡る。

「空ちゃんは何か夢はあるの?」

「夢、ですか?そうですね」

私は考える。

でもやっぱり何も浮かばないのが現状だ。
趣味も読書しかないし。

「特には」

「本が好きだったら小説家とかどう?」

「無理です!お話を作るなんて私には出来ないって言うか」

「まあ、まだ十六歳だもんね。まだまだゆっくり考えたらいいよ」

「はい・・・」

将来か・・・・。最近はあまり考えたことがなかったな。
現状にいっぱいいっぱいだから、将来のことなんて考えた事ないし。

今の私に将来の夢を考える暇なんて、正直ないし・・・・。

私は再びお水が一口。
早く料理が来てくれないかな?

こうやって誠也さんと向き合う時間が凄く緊張するから、早く料理を食べて下を向きたい。

全然落ち着かない・・・・。

そんな中、店内に新しいお客さんがやって来る。
同時に真奈美さんの元気な声が店内に響き渡る。

「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」

お客さんの女性は小さく頷くと、真奈美さんに席に案内された。
金髪に近い、明るい茶髪のショートヘアの女性。

黒いサングラスを掛けて顔立ちはよく分からないけど、多分綺麗な顔立ちの女の人。

歳は二十代前半だろうか。
運動をしているのか、細目の体格の人だ。

ってかこの人、どこかで見た事あるかも・・・。

その女性を誠也さんも見つめていた。
気になるのか、誠也さんはずっと女性の背中を見つめている。

・・・・なんかムカつく。
誠也さんの無防備な足、踏みつけてやろうか?

私とデート中なのに、他の女性に視線が移るとかほんとふざけているし。
絶対に許さないし。

でも嬉しいことに、女性客を一目惚れする誠也さんに叱りの言葉が飛んでくる。

「アンタは昔から女が大好きだよね?」

そう言って現れたのは、キッチンにいた女性の人だ。
私達のテーブルに、沢山の料理を一度に運んでくれる。

一方の誠也さんは目の前に『自分のお母さん』がいることに驚く。
「うわぁ、ビックリした。ってなんだ母さんか」

「空ちゃんがアンタを見て怒っているよ」

直後、誠也さんと目が合う。
そして私の冷たい表情見て理解してくれたのか、私に苦笑い。

「ごめんごめん。今日は空ちゃんの日だったね」

まるで『他にも遊ぶ女がいるから、今日は空ちゃんを選びました』みたいな誠也さんの言葉。
本当にムカつく!

ムカつくから、私も誠也さんに攻撃する。