「私とまず付き合ってきださい。そしてこれからも私を支えてください。あの時、勝負に負けたのは誠也さんだから、拒否権はありません」

この『お願い』はもともと誠也さんが持ち出してきたものだ。
誠也さんと遊園地に遊びに言った時、ジェットコースターに乗るか乗らないかで勝負に出たあの日のゲーム。

そのゲームとは、『サメを撃つアトラクションで点数が多い方が勝ち』と言うゲームだ。
私が負けたら大人しく大嫌いなジェットコースターに乗り、逆に私が勝ったら誠也さんになんでもお願いをすることが出来る内容。

結果は私の勝ちで、誠也さんになんでも好きな事をお願い出来る事になった。
そしてその時は誠也さんの対応に腹が立って、気が済むまで誠也さんを殴りたかった私だけど、その後の遊園地がすっごく楽しくて、そのお願いの存在を忘れていた。

期限なんてないから、ずっと続くと思っていたのに・・・・・・。

ふざけた田中誠也の次の言葉に、また私の怒りのゲージが溜まる。

「嫌だね」

嫌だ?

誠也さん、何を言っているの?

「は?ちょ、誠也さん!『誠也さんを好きなように出来る私との約束』ですよ?」

「知らないね、そんな約束」

あー、もう絶対に許さない。

「ぶん殴ってやる!このばか誠也さん!」

「あははは!やっぱり面白いな。嘘に決まっているのに。これだから空ちゃんで遊ぶのは楽しい!」

誠也さんは私を見て大きな声で笑い始めた。

本当に腹が立つ!

「ふ、ふざけんな!ばか誠也さん!もう!」

「怒る空ちゃんも可愛いね」

「うるさい!」

やっぱりこのバカには『痛い想い』をさせて思い知らせないと無駄なようだ。
ボコボコにして私に逆らえないほど痛めつけないと、このバカにはわからないようだ。

だから私、また誠也さんに飛び付いた。
そしてそのアホズラをボコボコにして殴ってやろうかと思ったけど・・・・。

・・・・・・・・。

本当の私はただ、誠也さんの困った顔が見たいだけ。

「あっこら、空ちゃん?」

誠也さんも私に殴られると思って、小さく構えていた。
でも私の本当の狙いはこの『アホズラの田中誠也』じゃなくて、誠也さんの上着のポケット。

自慢げに私に見せびらかしてきた、小さな指輪。

・・・・・・。

その指輪が入ったケースを素早く奪うと、私はすぐに誠也さんか離れた。
そしてこのお店の出入口へと急ぐ。

その姿はまるでアニメや漫画に出てくる『怪盗』みたいにかっこよく。
『雪の舞う明かりの少ない漆黒の街を、疾走と駆け抜けてやろう』って思いながら。

『この指輪がある限り、誠也さんは私のもの』なんてちょっぴり変なことを考えながら。

・・・・・・・・・・。

でも、私は一人じゃ何も盗めない、ちっぽけな怪盗。

結局警察に捕まってしまう間抜けな怪盗。