あ、だからか。
だから私、誠也さんの前で笑えないんだ。

この人には『嘘をつく理由』がないから笑えないんだ。

誠也さんには嘘をついたら、それこそ心配されちゃう。
私の本音を聞いてもらった誠也さんだからこそ、嘘をつけない・・・・・・。

そんな私を心配するように、誠也さんは私にいくつか問い掛ける。

「千尋と一緒に踊れて楽しかった?」

「うん」

楽しかった。
新しい自分を見つけられて、嬉しかった。

「燐ちゃんと花音ちゃんと仲良くなれて嬉しかった?」

「うん・・・・」

昔のように毎日遊んでいる。
別れの時間になっても、携帯電話で夜遅くまでおかしなお話をして盛り上がっている。

「海ちゃんと孝太くんと、いつも以上に仲よくなれた?」

海ちゃんも孝太くんも一緒。
本当にみんな優しいから、こんな私を喜ばせようといつも笑ってくれる。

私も、最近すごく楽しい。

・・・・・なのに。

「・・・・・・・」

答える度に、なぜだか辛く感じてしまう私。
声も小さくなってしまう私。

最後に関しては、小さすぎて自分でもなんて言ったのかわからない。

そんな私に、また誠也さんは現実を突き付けてくる。

また私を救おうとしてくれる・・・・・。

「空ちゃん、お父さんが死んで、辛かった?」

その誠也さんの言葉に急に視界がぼんやりしてきた。
そして私の目から、雫が一つこぼれおちる。

ずっと堪えていた私の『涙』が限界を迎えてこぼれ落ちる・・・・。

そんな私を見て、誠也さんは言葉を続ける。

「キヨさん、言っていたよ。『空ちゃんは将大さんが死んだことを、まだ悲しんでいる』って。一人でお父さんが眠る仏壇の前に立つと、すぐに涙が出てくるって」

・・・・・・・・・。

「その証拠にさっきの過去、まだ引きずっているんでしょ?お父さんに初めて怒られて、お父さんに認めてもらえたあの日のこと。その記憶を思い出すと、お父さんと過ごした記憶が蘇るのでしょ?空ちゃんにとって、お父さんはどんなときも助けてくれた『ヒーロー』だから尚更。お父さんと過ごした記憶は、空ちゃんにとって大切な宝物だから尚更ね」

もうその話はやめて下さい。
そう言って叫びたいけど、涙が止まらない。

手で拭ったり、頑張って必死に涙を堪えているけど、涙は止まらない。

それに誠也さんに私の心を見事に読まれて、うまく言葉が出てこない。
何も言い返せない。

でも、そんな私を誠也さんは優しく包んでくれる。