「ったく、中身は大して昔から変わんねーのに、図体と態度はデカくなりやがって。そんなへなちょこ攻撃、痛くも痒くもねえ・・・いててて!」

私の元に駆けつけた誠也さんはすぐに苦笑い。

「空ちゃん、噛み付くのは反則・・・・」

そして私に歯型が残るほど強く腕を噛み付かれたお父さんも苦笑い。
まるで『可愛い娘だな』って言うようなお父さんの優しい笑み。

でも相変わらずお父さんは私を逃がしてくれない。
『痛い』と叫んでも、絶対に私を離してくれない。

「ホントだぜ。ってか誰に似たんどろうな、この『わがまま姫』は」

そう言ったお父さんは小柄な私と視線を合わせるように地面に膝を付くと、突然私に向かって頭を下げ始めた。

そして、私の知らないお父さんの声が聞こえてくる。

お父さんの今の気持ちを聞かせてくれる・・・・。

「ごめんな、空。俺、『間違ったこと』をしてしまったよ。本当にごめん。俺、大切な時計よりもっと大切なものなくすところだったよ」

・・・・・・・・。

「本当にごめんなさい。怒鳴ってごめんな、空。こんな馬鹿なお父さんを許してくれないか?」

「お父さん・・・・・」

強く、まっすぐな瞳で、私を見つめるお父さん。
『許してほしい』と、目でも私に問いかけるお父さん。

こんな状況、生まれて初めてだ。
いつも私を引っ張ってきたお父さんだから、目の前のお父さんはすごく変わって見える。

・・・・・。

そんなお父さんに、なんて言葉をかけたらいいのだろう。
いや、言いたいことはあるのだけど、今の私には言葉がうまく出てこない。
すぐにお父さんから目を逸らしてしまうのが現状だ。

大好きなお父さん相手なのに、逃げようとしてしまう私。

でもそんな私の背中を、またしても誠也さんは押してくれる。

「どうする?将大お父さんが『ごめんなさい』って謝っているよ。こんな時、空ちゃんはなんて言葉を返すの」

「えっと・・・・・」

お母さんが言っていた。
『ごめんなさいって相手に言われたら、「絶対に許さない」と言って相手の頭を踏みにじれ』って。

『自分の大好きな相手が謝っていたら、自分の靴を舐めてもらえ』って。

・・・・・・。