「空ちゃんは元々壊れている『腕時計』を修理しようと、将大さんの『腕時計』をポケットに入れて、近くの時計屋さんに持っていった。でも時計屋さんについたら、ポケットに入っていたはずの『腕時計』が無くなっていた。もちろん空ちゃんは必死に探した。空ちゃんも、『お母さんがお父さんにプレゼントしたもの』って知っていたから、頑張って探した。まるで幼い空ちゃんがお父さんにもらったハムスターのぬいぐるみを夜遅くに家を飛び出して探していた時のように。・・・・・でも今回ばかりは見つからなかった。どれだけ探しても、腕時計は見つからなかった」

・・・・・・・。

「今回は『お父さんに助けを求めるのも違う』と感じた空ちゃん。だって、今回はお父さんを喜ばせようとした、『優しさ』から生まれた出来事だからね。お母さんとの思い出の『腕時計』が壊れているから、空ちゃんは『修理しよう』と思った。でもそのお父さんが大事にしている『腕時計』を『失くしてしまった』って言えば、怒られるかもしれないし。だから『黙っていた方がいい』と感じたんでしょ?まあ、将大さんも鋭いから、すぐに自分の『腕時計』がないことに気が付いた。すぐに空ちゃんに『腕時計を知らないか?』って問いかけていたし」

・・・・・・・。

「だからそこで、生まれて初めて空ちゃんはお父さんに嘘をついたのだよね?『腕時計は知らない』って、嘘をついたんだよね?」

もう、やめてください・・・・・。

「そして嘘をついた空ちゃんを怒鳴った。『大切な俺の時計を勝手に失くしやがって、ふざけんな!』って。本当は全部知っている将大さんは空ちゃんに怒った。空ちゃん、『腕時計』を持ち出す前から『腕時計』のことを色々と将大さんに聞いていたし。将大さんがその『腕時計』を外してどこかに行けば、すぐに駆けつけて『腕時計』を触っていたし。全部、将大さんの罠だと言うのに。まあ将大さん、その日は特に機嫌が悪くて空ちゃんも運が悪かっただけなんだけどね。怒るつもりはなかったけど、将大さんは嘘が嫌いだし。茉尋さんから貰った思い出の『腕時計』が無くなってしまって、冷静じゃなかっただろうし。怒った後の将大さん、すごく落ち込んでいたし」
 
・・・・・・・。

「一方の空ちゃんは、泣き出して家を飛び出してしまった。お父さんのことが嫌いになって、家出をした」

私は両耳を塞いだ。
もうその話は聞きたくないと、誠也さんに合図を送る。

でも・・・・・・。

誠也さんの声は嫌でも耳に入ってくる。

私と誠也さんの思い出が聞こえてくる。

「俺と将大さんは必死に空ちゃんを探した。夜遅く、外は暗かったからすごく心配した。手分けして探した。そして俺はすぐに空ちゃんを見つけた。この街に流れる大きな川のすぐ側で、一人泣いている空ちゃんを見つけた。お父さんと空ちゃんの思い出の川でね」

・・・・・・。

「俺はすぐに駆けつけて空ちゃんに聞いたよ。『なんで泣いているの?』って。そうしたら空ちゃんはこう言ったんだ。『私、悪い子だから、お父さんが怒ることをしてしまった。だからお父さんは私を怒った。お父さんにごめんなさいって言いたい』ってね」

「言ってないです」

「言った。泣きながら言っていた。だから俺はこんな言葉を掛けたんだ」

そう言った誠也さんの言葉の直後、その時の出来事が私の脳内に映し出される。

誠也さんとお父さんの記憶が無理矢理蘇る・・・・・・・。