「あの頃の空ちゃん、ずっと俺から逃げていたな。まるで飼い主のことが嫌いな可愛い子猫みたいだ。すぐに俺に噛み付いたり引っ掻いたりしようとするし」

「だってあれは誠也さんがうっとしいから。逃げても追いかけてくるし・・・・。女子小学生を追い詰めるなんて犯罪だし」

「でもある日から、空ちゃんは俺のことを認めてくれたよね?あれっていつだった?」

「えっと・・・・・」

私は過去を思い出す。

・・・・・。

でもやめた。

「お、思い出したくありません」

「なんで?」

「言いたくないからです」

そういえば逃げれると思った。
『この話はしたくない』と誠也さんの言葉に振り向かなかったら、もう追ってこないと思った。

でも・・・・・・。

誠也さんは性格が悪い。

私の『過去』を簡単に掘り返して来る。

「確か将大さんにすごく怒られていたもんね、空ちゃん」

お父さんに怒られた。

・・・・・・・。

うるさい!

「知らないです。私、『いい子』だったからお父さんに怒られたことなんてないです!」

怒鳴る私の声に、誠也さんは笑う

「そうかな?俺はしっかり覚えているよ。空ちゃん、お父さんが大切にしていた『腕時計』を無くしてしまったんだっけ。確かあれ、茉尋さんが将大の誕生日にプレゼントしたものだっけ」

「だから知らないです!勝手な妄想話をするのはやめてください!」

何をいえばこの人は自分の妄想話をやめてくれるだろう。
どうやったら、この場をしのげるだろう。

・・・・・・・。

そうだ。
早く帰ろう。

と言うか疲れた。
眠たい。

明日の予定は特にないが、また早く起きて千尋さんに教えてもらった振り付けを練習してみよう。
『年明けにはその振り付けを撮影して、動画にする』って言っていたし。

だから私ももっと頑張らないと。
生まれて初めて、自分にあった『好きなもの』を見つけられたんだし。

・・・・・・・。

なのに、どうしてこの人は私を苦しめるのだろう。

どうしてそこまで本気になって、手を差し出してくれるのだろう。