「今日もつけてくれているんだね、そのネックレス」

私は無意識に、自分の首からぶら下げている四葉のクローバーのネックレスに手を触れながら答える。

「だって、誠也さんからもらったものだし。もうこの世に一つしかないものだし」

「嬉しいね。とっても似合っているよ。その首輪」

もう・・・・。
台無し。

「首輪じゃないです。ネックレスです。私、誠也さんのペットじゃないです」

「あはは」

あははじゃないし。
相変わらずど私を人間に思ってくれないんだし・・・・・・。

・・・・・。

「ねえ空ちゃん。俺と初めてあった日のこと、覚えている?」

「誠也さんと初めてあった日のことですか?」

「ちょうど五年前かな。空ちゃん、確かずっとお店の事務室で本を読んでいたっけ。俺の存在にも気づいてくれなかったし」

五年前、間違いない。
私が小学六年生の時だから合っている。

その頃の私、お母さんが亡くなったショックで、音楽を絶ってずっと本を読んでいたんだっけ。
学校から帰ったら誠也さんが言う『お店の事務所』で、ご飯の存在も忘れて読んでいたし。

誠也さん、私が本を読んでるのに嫌がらせの様に声を掛けてくるし。

「あれはえっと・・・・、その時に読んでいた本が面白かったって言うか」

「武瑠くんがずっと遊ぼって言っていたのに?」

「本が面白かったんです・・・・・・」

「将大さんが『一旦本を置け』って言っていたのに?」

「だから本が面白くって・・・・・・」

・・・・・・・。

誠也さん、何を私と話したいのだろう。

なんで私が辛かったことの記憶を思い出せて来るのだろう。

・・・・・・・。

「本当は私、気がついていました。誠也さんの存在に。でも、なんて声をかけたらいいのか分からないですし」

「空ちゃん、人見知りだもんね。って言うか、全然俺に心を許してくれなかったし。すぐに俺から逃げようとするし。いっつも俺から逃げていたし」

「だって私、血が苦手だから!誠也さん、いつも生臭かったですし」

「あはは。それはちょっとショック」

誠也さんは苦笑いを浮かべて一つを置くと続ける。

「でも俺、頑張ったんだ。空ちゃんに認めてもらおうと、空ちゃんの心を開かせようと頑張ったんだよ。武瑠くんにも相談してさ。『どうやったら空ちゃんと友達になれるかな?』って」

「犯罪です」

「でも将大さんに頼まれていたし。『ウチの鈍感な空って言う生意気なクソガキと友達になってくれってさ』ってさ。犯罪じゃない」

どうみても犯罪なのに。
十九歳の男が小学生の女の子と『友達になりたい』とかありえないし。

早く警察に捕まればいいのに。

ってか目の前の『田中誠也』を逮捕できたら、私はすっごく幸せなのに。

もういじられることはなくなるだろうし。

・・・・・・・。

でも今も昔も、私は誠也さんに助けられて生きていたことは事実。