「ばか!誠也さんの変態!」

私は拳を作ると誠也さんに襲い掛かる。
そのふざけた笑顔を目掛けて、私は怒りを露にする。

一方で誠也さんはずっと笑っている。

「あははっ!空ちゃんはからかうと面白いな」

「うるさい!」

私は引き続き、誠也さんの気に入らない顔を目掛けて拳を振りかかる。
他のお客さんの視線なんか忘れて、水族館のフロアの中で暴れる私。

でも誠也さんから見たら、私の拳は蚊のようなもの。
殴られても、痛くも痒くもないよって言われているようなもの。

だから誠也さんは私の拳を掴むと、無理矢理手を繋ごうとしてくる。

「よし、じゃあ次に行こう。ペンギンショーの時間だし。早く席に座らないと、立ってみることになるからね。なんと言っても人気のショーだし」

ペンギンショー?
一人で見てろばーか。

「触らないでください」

そう言って私は誠也さんの手を払った。
同時に両手を後ろに隠す。

「なんで?」

「変態誠也さんが嫌いだからです」

「って言われてもな。空ちゃんは俺が守るって決めたし」

「変態さんは断固お断りです」

誠也さんも私の言う変態という言葉が気に入らないのか、私に平謝り。
「悪かったって!ごめんごめん!」

「ごめんは一回でいいです」

「はいはい。本当に千尋そっくりだな」

千尋?
誰だろう?

まあそんなことはどうでもいいか。

結局誠也さんは逃げる私の手を捕まえて、しっかり握ってくれた。
先程と同様に『もう二度と話さないよ』と言うような言葉が、誠也さんの手から伝わってくる。

私もそれが不思議と嬉しくて、抵抗をやめる。
本当に誠也さんは優しい人だ。

私の話をしっかり聞いてくれる。
くだらない私の話を嫌な顔一つ浮かべずに聞いてくれる。

私には『友達』と呼べる人が今はいないから尚更嬉しい。
そして『人と話すことは楽しい』と私に思い出させてくれる誠也さん・・・・。

そんな誠也さんと一緒に、私は水族館の中を進んでいく。