いつの間にか時刻は午後九時三十八分。

街を照らす太陽はもうとっくに落ちて、輝く月や星々が漆黒の空に舞っていた。
寒さも一段と厳しくなる。

どうやら私、ずっと練習していたみたいだ。
時間を忘れて、六時間も千尋さんと一緒に踊りの練習をしていたみたい。

休憩も取らずに動いていたから、体の疲れもすごく溜まった。
すごく疲れたから、早く横になって寝たい気分。

・・・・・・。

だけど、私には休む暇なんてない。

寝たりなんかしたら、間違いなく殺される・・・・・。 

私は一旦家に帰り、シャワーで汗を流した。
そして着替えて、再び千尋さんにメイクと髪のセットをしてもらう。

急いでまた家を出る支度をする。

ちなみに今回は、千尋さんから渡された淡い青色のパーティードレス。
もちろんこんな恥ずかしい服、私は着た事がない。

と言うか、なんでこの服なんだろうか?
なんか、めちゃくちゃ恥ずかしいのですけど・・・・・。

まあでも今は『恥ずかしさ』なんて気にしていられない。
今日の待ち合わせ相手である誠也さんに、とんでもない事をしてしまったから、私の中で人生で経験したことのない『申し訳な気持ち』がこみ上げてくる。

同時に、『遅刻をした相手を馬鹿にするんじゃなかった』と後悔。

なんだか胸が痛いです。
苦しいです・・・・。

そして家を出ようと思った時、家のインターホンが鳴った。
おばあちゃんは現在外出中で、千尋さんも私にメイクをしてくれると何処かに行ってしまったし。

だから家に一人の私が玄関の扉を開ける。
誰が来たのだろうと確認する。

・・・・・・・・。

「やあ、こんばんは。準備は終わった?待ちくたびれたよ」

玄関の扉の向こうには黒のカジュアルスーツを身にまとい、オシャレな真っ赤なネクタイを締めた誠也さんが私に笑顔を見せていた。

髪型もワックスで整えて、オシャレな黒縁メガネかける誠也さん。

まるでモデルさんみたいにカッコイイ。
そんないつもと違うかっこいい誠也さんに私は見とれてしまった。
顔を赤く染めて、背の高い誠也さんを見上げる私。

・・・・・・。

でもその前に謝らないと・・・・・。
誠也さん、わざわざ私の家まで迎えに着てくれたし。

私、人のことを言えない立場になっちゃったし。

「ご、ごめんなさい・・・・・。本当に遅れてごめんなさい」

誠也さんは優しくまた笑ってくれる。

「気にしなくていいよ。別に怒ってないし。むしろ空ちゃんに夢中になれる事が出来て、俺は嬉しいよ。『ずっと笑顔で踊っていた』って千尋が言っていたし。・・・・まあ後で『遅刻一分につき千円』の罰金をもらうけど」

「・・・・・・ごめんなさい」

最後に『いつもの誠也さん』を出さないでください。
今の私、すっごく傷つきやすいのですから・・・・。
でも誠也さんはそんな私の手を握ると、優しく呟く。

「早く行こうか。今日は楽しもう」

今日は楽しもう。

・・・・・・確かにそうだ。

「うん」

私は小さく頷くと、靴を履く。
そのまま家を出る。

これも千尋さんに用意してもらった、白いパンプスというヒールみたいな靴。
でも履いた事がないから、すごく歩きずらいです。