まあでも、千尋さんは私を気が済むまでいじめ終えたら、私から離れてくれた。
満足しているのか、千尋さんはずっと笑顔だ。

本当にホントに、ほーんとにふざけやがって!

やり返せるなら私も暴れたかった。
でも今の私はまるで水揚げされて活気を失った魚みたいだった。

今から体を動かすと言うのに、『体力』や『やる気』などを奪われた私は、フローリングの床で横になっていた。

ある意味、何もかも失った私・・・。

そんな私を見て、千尋さんはさっそく本題に移る。

「じゃあさっそく踊ってみようか。時間もあんまりないし」

「・・・・時間がないのに私を攻撃したのですか?」

「まあいい準備運動にはなったでしょ?空、逃げるのに必死になって動いていたし」

「納得できません!」

いっそのこと、本気で逃げるようにこのスタジオを飛び出してみようか。
本当に帰ってやろうか。

それか、何か反撃出来る武器とかはないのだろうか。
この困ったお姉さんをギャフンと言わせる方法はないのだろうか。

そう思っていいたんだけど、私の耳にとある音楽が聞こえてきたから、私の怒りは消えていく。

千尋さんの携帯電話から大好きなお母さんの曲が聞こえたから、私に心は穏やかになっていく。

「これって・・・・」

他の人とは違う、独特な音楽感。
例えを言葉にすると難しいけど、どこか人の心に刺さる『mahiro』のメロディー。

街を歩く人の足を止めてしまうような、私のお母さんが作った代表曲。

その曲名は、『青空』という曲だった。
今から十年前に大きな旋風を巻き起こした、mahiroが歌うピアノを主体とした曲。

CDの売り上げも凄かったけど、動画サイトに投稿されたPVの再生数もすごい事になったんだっけ。
海外でも有名になったお母さんの最高傑作。

私も昔はずっと聞いていたっけ。

まあ、お母さんが亡くなってからは全然聞いていなかったけど。
聞くとどうしても『お母さんと過ごした楽しい記憶』が脳内に再生されるし。

同時に『お母さんはもういない』ってこの曲が教えてくれるし。

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