「でもね、代わりに両親とは完全に絶縁した。お姉ちゃんが亡くなった時も、両親は知らない顔を浮かべていたし。多分、空の存在も認めていないと思う」

その千尋さんの言葉に、私は一つ疑問を抱く。

「えっと、千尋さんは両親とは仲はいいんですか?」

千尋さんは一度私から目を逸らしてから答える。
表情も突然暗くなる。

「呆れ返るよ。両親、千尋のことが大好きなんだ。お姉ちゃんはずっと両親の言うことを聞かなかったけど、千尋はずっと両親の言うことを聞いて生きてきたし。まあ、お姉ちゃんの話を少しでもしたら、千尋はすごく両親に怒られたけど」

「だったら、私と一緒にいてもいいのですか?その、私の存在を認めてないなら、千尋さんが私と一緒にいるのはまずいって言うか」

千尋さん、今度は笑った。
いい笑顔じゃなくて、苦笑い。

「ホント、空はいつも誰かのことを優先するよね。そう言うところ、お姉ちゃんそっくり」

その時、注文したサンドイッチが私と千尋さんが座るテーブルに運ばれてきた。

ちなみに運んでくれたには、明るい金髪の女性従業員。
胸についた自作の名札には店長と書かれている。

まあ、今はそんなことはどうでもいいか。

私はまた千尋さんの言葉に耳を傾ける。

千尋さんの本当の心の声が聞こえてくる。

「別に千尋、誰かに認めてもらいたいとか、そんなことを思って仕事をしているわけじゃない。チロルのファンが千尋のことをどう思っているかとか、心の底からどうでもいい」

千尋さんは一つ間を置くと続ける。

「千尋、体を動かすことが好きなんだ。踊っている瞬間が一番好き。だから、その邪魔さえしなかったら千尋は嫌われても、何を思われても別にいい。実の両親に何を言われても気にしない。逆に邪魔されたら、心の底から怒るかな?多分タダじゃすませないよ。邪魔すんなって、千尋は戦うよ。例え家族や大切な友達であってもね」

・・・・・・・。

「と言うか、『やりたいこと』をやって何が悪いのさ。どうしてそれを『好き』だと認めてくれないのさ。なんでお姉ちゃんばっかり嫌な思いをしなきゃいけないのさ!ふざけんなよ!親の敷いたレールに沿って生きてきていいことなんかあるかよ?いくら自分の娘だからって、何でもかんでも許されるわけじゃないんだぞ。その『好き』を奪われたら、『生きていくことが嫌』になる人だっているのに」

・・・・・・・。

「初めて見た。お姉ちゃんの泣き顔。両親にパソコンを壊されて、一人で大泣きしていた日のこと。まだ幼かった千尋だったけど、その光景はまるで昨日のように覚えている。しっかり覚えてる。どんな時も、千尋を喜ばせようと笑顔を見せてくれた強いお姉ちゃんなのに。まるで、とてつもない悪にやられた正義のヒーローみたい。好きなことを奪われたお姉ちゃん、本当に毎日落ち込んでいたし。『生きていて楽しくない』って、千尋に呟いていたし」

その時、千尋さんの目から涙がこぼれ落ちた。
その涙は、まるで当時流したお母さんの涙みたい。

目の前の千尋さん、まるで当時のお母さんが泣いているみたい。

・・・・・・。

でも、千尋さんはやっぱり強い人。
すぐにこぼれ落ちた涙を拭うと、私に笑顔を見せてくれる。

「ごめんね。これから頑張ろうとする空には嫌な話だったね。自分のお母さんのお話だし、空にとってのお母さんは、強くて優しいお母さんだもんね」

千尋さんは続ける。