「・・・・・なんですか?」

「んん?別に?」

まるで『すごい母親がいるのに、どうしてこんな残念な娘が出来てしまったんだろう』とでもいいそうな真奈美さんの嫌らしい表情。

また私のことをバカにしてるのだろう。

まあ私はどちらかと言うと、『お父さんっ子』だったし。
お母さん、仕事に夢中であんまり構ってくれない時期があったから、お母さんよりお父さんと一緒にいた時間の方が多かったし。

と言うかお母さんと一緒にいた時間て言えば、晩御飯を作って食べる時間だけだし。
お母さん、ずっと部屋に引きこもっていたし。

悪戯好きでまるで子供みたいなお母さんだけど、実は人付き合いが苦手だったし。
私の前や家では優しく明るいお母さんだけど、人前だと私みたいにオドオドしちゃうって言うか。

とにかく『人見知り』がすごかったし。
殆ど人と話せなかったし。

いつもお父さんが間に入って通訳するような、本当は気の弱い人だったし。
まるで今の私みたいな人。 

千尋さんは話を戻す。

「だから、千尋もお姉ちゃんのように『また頑張ってみよう』かと思ったの。お姉ちゃんの曲を改めてちゃんと聴いて、一生懸命振り付けを考えて、『ガムシャラ』に頑張ってみた。踊った事もないのに、お姉ちゃんの様にダンスを習った事もないのにね。とにかく『挑戦』してみる事にした。そうしたら千尋、ずっと笑っていたんだ。『人生すごく楽しい』と感じる様になった。『踊るのがすごく楽しい』と感じたの!なにより『好きな事一つで人生変わるんだ』と初めて知った。この仕事を始めて、本当に良かったと思った。あと『人生頑張っても良いんだ』って、好きなことを通じて学べたかな?」

好きな事一つで人生変わる。
その言葉が私の中で響いた。

好きなことや趣味が曖昧な私だから尚更。

千尋さんは続ける。

「だから、『その楽しさを空にも伝えられたらな』って千尋は思うんだ。空は『もっと人生を楽しむべき』だと思うし。と言うか、千尋が空を楽しませたいし」

そう言った千尋さんは私の頭を撫でた。
まるで、『これからあたしが空を支えていくよ』とでも言うように。

なんだか今の千尋さん、お父さんや誠也さんみたい。

すごく暖かい。

そんな千尋さんに私は返事を考える。

自身の辛い過去やお母さんとの思い出や、私のまだ知らない『楽しい時間』という言葉について教えてくれる千尋さんに合った返事を返したいけど・・・・・・。

なんだか私自身も『もっともっと自分の人生について学びたい』とそんなことが脳裏浮かんだ。

浮かんだから、私は返事を返す前に千尋さんに問いかける。

「それ、私にも出来ますか?振り付けとか踊ったりするの」

千尋さんは優しく微笑むと答えてくれる。

「出来るよ。『自分がやりたい』と思うならね。全部千尋がサポートするから」

そう言ってくれると嬉しいです。

私の中の不安が消えました。