「強引なのはわかっているよ。空が『こういう仕事をやってみたい』とか聞いたことがないし。まだ病み上がりだというのに」

確かに退院して日は浅い。
心の傷が完全に癒えた訳じゃない。

だけど、私が気なるのはそこじゃない。

「でも私、こんな性格だから苦手っていうか。いや、やったことはまだないんですけど」

「だよね。千尋もそうだった」

「え?」

千尋もそうだった?

・・・・え、どういうことですか?

千尋さんは続ける。

「誠也に聞いたらわかるけど、千尋も高校時代にいじめられていたんだ。内気な性格だから、結構舐められていた」

「そうなんですか?」

・・・・・・・。

え、本当にどういうこと?
千尋さんがいじめられていた?

私、頭が混乱して全く話についていけないんですけど。
話も急に飛んじゃうし・・・・・・・。

てか、嘘ですよね?
千尋さんが?

・・・・・・・・。

そうやって混乱する私を見た千尋さんは自身の過去を話してくれる。

「千尋さ、なぜか分からないけど昔から運動神経は凄かったんだ。どんなスポーツでも対応できたし。なんでもできたし。それでたまたま友達に剣道部に誘われたんだ。部活に興味なかった千尋だけど、面白そうだったから入部してみることにしたの」

その千尋さんの言葉にずっとビデオカメラを片手に持つ真奈美さんが問い掛けた。
真奈美さんも千尋さんの言葉が信じられないのか、私と同じで唖然とした表情。

「そういえば千尋さんって剣道の全国大会で優勝していたような。って、高校から剣道を始めて全国のテッペン取っちゃったんですか?」

「うん。千尋、何事も全力で物事を取り組みたいと思うタイプの人間だし。中途半端な気持ちで戦いたくなかったし」

「すごい・・・・。そしてなんかかっこいい」

真奈美さんの言葉に千尋さんは苦笑い。

「だから千尋、同じ部内の強い先輩にも勝っちゃった。先輩、全国でも指折りの選手なのに。しかも全国大会の出場を決める試合にさ。先輩、『高校三年生』と後がない大会だったのに」

そう言った直後、突然千尋さんの表情が曇った。
千尋さんからしたら、すごく嬉しい話なのに・・・・・。

・・・・・・。

どうやら、そうでもなさそうだ。