「キヨさんおはようございます!」

「おう真奈美。いらっしゃい」

真奈美。
その名前を口にするおばあちゃん声に、私は思わず身震い。

例えるなら、近くまでオオカミが迫ってきた現実を知る羊のような心境だ。
本当に、最近の真奈美さんには懲り懲り・・・・・。

まあ嫌いじゃないんだけどね。

だけど、今日は真奈美さんだけじゃないみたい。
私が大好きな名前を呼ぶおばあちゃんの声が聞こえる。

「千尋も来たんかい。東京に帰っとったんじゃないのか?」

「おはようございます。真奈美に呼ばれたので。来ないと・・・・・・やっぱなんでもないです」

「あいかわらずじゃな」

東京。
それは千尋さんが暮らす、まるでテレビの中にあるような私がまだ行ったことの無い世界。

どんな街なんどろうか?

そんなことがふと脳裏に浮かんだ最中、オオカミが羊を探し始める声が聴こえる・・。

「空ちゃんは・・・・あっいたいた」

私は直ぐにオオカミに見つかった。
私がいる部屋の扉を開けて、何やら嬉しそうに私を見ている真奈美さん。

そんな真奈美さんを見て、私は目を細めて訴える。

「ノックくらいしてください」

ってかおばあちゃんもそうだけど、勝手に入ってこないで。
『見られてまずいもの』とかはないけど、なんか嫌だ。

まあ、この人には何を言っても無駄だけど・・・・。

「空ちゃん相手にする必要がある?どこにハムスター小屋をノックする飼い主がいるのさ」

本当に本当に、私の知る『性悪田中兄妹』は私をなんだと思っているのだろう。

頭に来た。

「もう!ハムスター言わないでください!」

真奈美さんは笑う。

「なんでさ!ってか最近の空ちゃんって怒るようになったよね。成長したね」

「うるさいです」

私がそう言ったら、真奈美さんは今度は怒り出した。
本当に、何でも『自分の都合のいい方』に捉える真奈美さん・・・・。

「年上に向かって『うるさい』ってなんだ!アンタ、絶対私のことなめてるでしょ?」

「いや、そういうことじゃなくて・・・・・・」

なんでそうなっちゃうかな?
ってか、なんでそんなに自分の都合のいいように物事を捉えちゃんだろう・・・・・。

私は呆れたため息を心の中で一つ吐いた。
ちょっとついて行けない。

と言うかいっそのこと、真奈美さん前でため息を吐いてみようか。
もっと怒らせてみようか。

・・・・・・・・。

やめておこう。
なんか、取り返しのつかないことになりそうだ。

それに、不思議と真奈美さんと対立している人もここにはいるし、少し見物でもしよう。